僕らの高校弓道部セレナーデ
羽弦トリス
第1話第7サティアンの中身
時は1997年。場所は九州の片田舎。
バカな進学校の高校生弓道部の物語。
ここは、サッカー部や野球、高校の体育会系の部活のヤツラから"第7サティアン"と呼ばれているプレハブ小屋。ここには、部員20名の弓道部員が朝練、放課後、練習を重ねている。
3年生が5月には引退し、2年と1年だけが在籍している。
第7サティアンは西陽がキツいので、窓の外には棚を作り、ゴーヤを育てて、グリーンカーテンを作っていた。
「キャプテン、何をしてるんですか?」
「えっ?ゴーヤに肥料撒いてんだ!」
「辞めて下さいよ!先輩。他の部活からはここは第7サティアンって呼ばれていて、先輩が肥料撒いている姿を見たサッカー部の同級生はサリンを散布してるって、言われているんですよっ!」
「で?知ってるよ。あっ、ゴーヤこんなにでかくなったか~。1本いる?」
後輩の姿は消えていた。
このキャプテンと呼ばれる男は、文系の西正樹だ。正樹は、毎日練習前にゴーヤ以外の野菜の手入れをし、ミニトマトの味を楽しむのがこの夏の日課だ!
「おいっすー、キャプテン」
声を掛けたのは、同じ文系で同じクラスの鵜飼宏樹、通称ヒロちゃんだ。
「あっ、ミニトマト赤くなったね」
「食べる?ほれっ」
ヒロちゃんは、口の中にミニトマトを放り込んだ。
「んんっ!甘い!」
「でしょ?甘いでしょ?肥料を変えたんだ」
「これで、我が弓道部の家庭菜園は安泰だね」
「ああ」
2人がミニトマトを食べていると、
「やぁ、お二人さん」
声を掛けたのは、理系の小森光一だ。
「光一君、このキャプテンが丹精込めて育てた、ミニトマトを食べてごらん」
「……いらない。何でキャプテンの正樹君は練習時間より家庭菜園の時間が長いのよ?」
キャプテンはニヤリと笑い、
「的、中るもんね」
実際、キャプテンは的に中るのだ。弓道一筋6年。
「ほら、トマトもあるよ」
「お断りします。レッドアイの方が好きなんです」
光一は2人を残して、更衣室に向かった。
「なぁ~、キャプテン、レッドアイってなんだ?」
「レ、レッドアイ?あれだろ?目の充血だろ?」
「でも、光一君は好きだと言っていたよ」
「蓼食う虫も好き好きなのさ」
「なるほど~、そろそろキャプテン練習しよっか?」
「まだ、僕はこれから、苦土石灰撒かなきゃならないんだ。15分後に向かうわ」
「ラジャー」
「ごめん、そこのクワ取って」
「はいっ、どうぞ」
「サンキュ」
これが、部活と言えない、高齢者の生涯学習のような日々が弓道部の実態なのだ
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