第131話

 生きて、怪我もせず帰ってきたことを考えれば……悲しいけど、仕方がなかったのだと諦めもつく。

 でも、エミリーが消滅してしまったんじゃないかっていう考えで、心臓がぎゅーっと押しつぶされる。

 エミリーは生きているの?ちゃんと、シェミリオールの中にいる?

 ああ、でも、でも、もし、女の心の部分のエミリーがシェミリオール殿下の中で消滅したのであれば……。

 それは、殿下にとっては不幸なことではないのだろう。

 心が女であることで、それが許されない環境で、苦しんでいたことが無くなるのだ。

 記憶は失ってもこれから覚えていけばいい。エミリー……いいえ、シェミリオール殿下は今の方が幸せなのかもしれない。

 だとしたら私は?

「記憶は失ってしまったが……皇太子の地位を捨ててでも一緒になりたいと愛していたのだ。どうか側に寄り添って欲しい。我が息子の愛する女性よ、名乗り出よ」

 陛下の言葉に顔を上げてシェミリオール殿下の顔を見る。

 男女の愛は無かった。女同士の友情だ。

 その女であったエミリーがいないのであれば……。これから愛する人をシェミリオール殿下は見つければいいのでは?

 それは私じゃない……。男性アレルギーのある私よりも、もっと王妃として相応しい人がいつかあらわれるのでは?

 今の方が幸せならば、私はいない方がいい……。

 誰だ?

 誰なんだ?

 何故名乗り出ないんだ?

 と、会場にいる者たちが誰だろうとキョロキョロと視線を動かす。

 もしかしたら、会場に来ていないのでは?という話も出始めた。

「……息子は、多くの女性に声をかけるような男ではなかったと、私は信じているが。……もしかしたら、私の他にも誰かいたのではと思っておるのか?それともまだプロポーズをしていなかったのか?」

 陛下がうむと頷いた。

 ……名乗り出ないほうが、シェミリオール殿下はきっと幸せになれる。

 男性アレルギーのある私よりも、ずっとふさわしい人が……。

 ああ、涙がこぼれ落ちそうだ。

 もし、エミリーが生きていれば……。私の前ではエミリーでいていいのよ?と。シェミリオール殿下の支えになりたい。

 だけれど、エミリーが消滅してしまったならば……ならば……。私は邪魔にしかならない存在だ。

「ここに、シェミリオールが大切にしていた品がある。きっと、その女性から送られたものだと思う」

 陛下の後ろに、侍従の一人が立派な銀の盆に載せて小物を運んできた。

「あ……」

 小さな声が漏れる。

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