第132話

 陛下が、盆の上に載った一つの品を手に取る。

「これは、今、皆の間で流行っているブーケ・ド・コサージュと言うものであろう?女性側が主にドレスにつけるものだが、好きな男性にお揃いのブーケ・ド・コサージュを送るという話を聞いた」

 私がエミリーにあげたオレンジ色のブーケ・ド・コサージュが陛下の手にあった。

 ああ、エミリーは大切にしてくれていたのね。

 ザワザワと会場が周りの人間に視線を向ける。

 どこにいるのか。誰なのかとドレスに飾れれているブーケ・ド・コサージュを探す。

「皇太子殿下が女性と会えるような機会は一体どこにあったんだ?」

「いつも護衛が付いているのに、相手の女性が誰か分からないなんてあるのか?」

「護衛が距離を取る場といえば王宮内など全体の警備がしっかりなされている場所?じゃぁ、まさか相手は王宮の使用人という可能性が」

「それは確かに……許されないと思う相手だろう」

「王妃様の身の回りの世話をする侍女であれば貴族のご令嬢だから問題ないのでは?」

 色々と皆の噂が耳に入る。

「そういえば、公爵家で催されていた舞踏会に足を運んでいただろう?そこで出会ったのでは?」

 どきりと心臓がドキリと音を立てる。

「それならば、相手は貴族令嬢に違いないわよ。なぜ隠す必要が?……位がよほど低い女性?それとも容姿が劣るのかしら?他に問題が?」

「いや、会場には使用人もいるだろう。招待客とは限らない」

 ザワザワと声が途絶えることはない。

 容姿が何の問題になるのだろう。自分よりも見難い女性が選ばれたことで自尊心が傷つくとでもいうのかしら?

 皇太子妃になるということは、こんな風に皆に色々と言われるということだ。

 もし、男性アレルギーがあることがバレてしまえば……。私はどれほどの悪意にさらされるのだろう。

 ぶるりと、背中が寒くなった。

 怖い。怖い。

 壇上のエミリーに目を向ける。

 エミリーがいれば。怖いけれど、それでも側にいられたらと……思っていたのに。

 エミリーがもういないのならば……。シェミリオール殿下の隣に、私が立つ必要はない。

 お菓子を可愛いと言い、ブーケ・ド・コサージュをなんて素敵なのかしらと目を輝かせて見るエミリーがいないのであれば。

 女性の心を持っていることを知っているのは、味方なのはお姉様だけだと言っていた。

 エミリーがまだシェミリオール殿下の中にいるのか確認してもらえたらいいのに。

 他国に嫁いだ王女様……。とても頼めるところにいない。

「それから、もう一つ。ハンカチだ。イニシャルが入っている」

 ザワザワとさらに会場が揺れる。

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男性アレルギー令嬢とオネエ皇太子の偽装結婚 ~なぜか溺愛されています~ とまと @ftoma

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