第127話
「ありがとうお兄様。……全部、お断りして……あ」
全部じゃない。
一人だけ。
もし、声をかけられたら……。踊りたい。
「こちらが断ることが難しいお相手でしたら、その……」
お兄様が私の言葉に、ああと小さく頷いた。
公爵の立場で断りにくい相手なんて、2人しかいない。陛下と、もう一人……。
「殿下からお声がかかることを心配しているのか」
心配じゃないです、期待ですっ。と、お兄様も私とエミリーの関係は知らないのだから勘違いも仕方がないわよね。
「大丈夫だ。殿下だろうが、私が断ってあげるよ」
え?
いや、お兄様、断らないでよっ!
「あ、あの、アレルギーが出なか確かめて、その、出ないなら、大丈夫ですし……」
「そうか。話もしないうちに断るのは流石に不敬か。じゃぁ、話をしながらアレルギーの様子を確認して、もしダンスが無理そうなら気分が悪いようだとお断りしよう」
お兄様の言葉にほっとする。
エミリーとダンス。
壇上で上位貴族最後の人の祝いの言葉を受けたエミリーの姿を見る。
挨拶が終わると、陛下が椅子から立ち上がった。その横に王妃様が立ち、さらにシェミリオール殿下が並ぶ。
「皆の者に、一つ知らせがある。戦争を勝利に導いたシェミリオールの褒賞として一つ願いをかなえる約束をしていたのだ」
願い?
ざわざわと、会場の者たちが一体殿下の願いとは何なのかと噂を始める。
「どうやら、シェミリオールには、皇太子の位を捨ててでも一緒になりたいと思う女性がいたようなのだ」
え?
陛下の言葉に、不安が渦巻く。
一緒になりたい女性?そんなの、エミリーにいるわけがない。いたとしたら……。婚約しましょうって言われた私のこと?
私のために、エミリーは皇太子の位を降りようとしていたの?
ああ、違う、違う、違う!そうじゃない。
もしそうなら、私は皇太子妃にだってなんだってなる覚悟を決めたってエミリーに伝えるわ。
女性の心を持ちながらもそれを隠して皇太子としてふるまい続けることが辛いんだよね?
言っていたもの。エミリー……家は、弟に継いでもらえばいいって。親がそれを許してくれないって。
……だから、戦争に行ったんだよね?皇太子の地位を返上してもらおうと思って……。
そうなんだよね?
私のために……どこの誰とも、その時は分からなかった私のために……もしかしたら下級貴族、男爵令嬢かもしれないと思っていた?
だから、私に苦労させないようにと皇太子の地位を降りよとしたんじゃないよね?男性アレルギーがある私のことを気遣って皇太子の地位を降りようとしたんじゃないよね?
私が、エミリーの運命を覆しちゃったんじゃないよね?
私が……私が、エミリーを……戦地に向かわせてしまったの?
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