第120話

 まだ幼さの残る、社交界デビューをしたばかりといった様子の子だ。確か三女の……名前は何だったかな。

 と、考えている間に、立ち去って行き、陛下の前にいた次の公爵が殿下の前に。そして私とお兄様は陛下の前へと足を進めることになった。

「これは秘蔵のご令嬢だな。あやつが可愛い可愛いと言うのも頷ける」

 あやつ?お父様のことかしらね?

 陛下がニコリと笑って私の挨拶を受けてくれたことにほっとする。

 エミリーと私が結婚したらお義父様になる方だ。失礼があったり嫌われたりしたら困る。

「ふふ、リリーシャンヌ、今日も飛び切り素敵なドレスを身に着けているわね?真っ白なドレス、それは素敵で皆が噂するように本当に天使みたいだわね」

 お妃さまがニコリとほほ笑んでくださった。

 ああ、エミリーの笑顔に似ている。

「かわいいわぁ。うん、白一色なんて地味じゃないのなんて思っていましたけれど、フワフワとして本当に可愛くて素敵」

 その後に続く言葉が、まるでエミリーのようで……ああ、きっとエミリーはお妃さまを見て育ち、お妃さまにあこがれもあってそれで似ているのかもしれないなぁとふと思った。

「流石リリーシャンヌね。噂も色々聞いていますわよ」

 え?

「う、噂……ですか?あの、父や兄が言うことは……話半分で……」

 いったい何を言われているのか。うちの天使が~みたいな恥ずかしいことを言いふらしているのでは。

「くすくす。もちろん、お父様からも娘自慢は聞かされていますが、別の人からの噂ですわよ」

 べ、別の人から?

 まさか、エミリーが、私の話を?

 ああ、違う、落ち着いて。エミリーは私が公爵令嬢のリリーシャンヌだって知らないはずよね?

 それとも、私がどこの誰なのか、こっそり調査させた?

 いえ、調査などさせなくても、皇太子だったならばあちこちにいろいろ……影から見守り護衛する人のような人間がいてもおかしくない。

 そして、殿下に近づいた者の調査を命じられなくてもしているかも。だって、暗殺者だとか殿下を害する者が紛れ込んで近づいていては危険だものね。

 で、実はとっくに私の正体をエミリーは知っていて、知らないふりをしてくれていた?

 いや、なんかそんな感じではないとは思うけれど……。

「ブーケ・ド・コサージュの発案者はリリーシャンヌなのでしょう?」

 え?

 あ、そっちの噂?

「それから、動物の模様をドレスにあしらうというアイデアも斬新だわ。次々に新しいファッションを考案しているリリーシャンヌに、早く会って見たかったのよ」

 ああそうか。噂って言うのは仕立屋さんから聞いた噂ってことかな?

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