第112話
王宮はすでに華やかで明るい空気で満ちていた。
戦争に勝利したこと、久しぶりの舞踏会が催されることが理由だろう。参加者だけではなく、使用人たちのひょじょうも明るい。
馬車を降りたその瞬間から、人の視線を感じる。
仕方がない。ただでさえ、上位貴族というものは注目を浴びる物だと兄は言っていた。
「まぁ、あの方はどなた?」
「素敵なドレスね。真っ白なんて……」
早速ひそひそと噂話が聞こえてくる。
お兄様は、私のエスコートをかってでてくれたものの、兄とはいえ軽くアレルギーが出てしまう。
そのため、近い距離にはあるけれど決して普通のエスコートのように腕をとったりするのは難しい。
「ロバート様が伴っている女性は誰?」
「どうしてエカテリーナ様じゃないの?」
下位貴族から会場入りをする暗黙のルールがあるため、私とお兄様が会場に入ったのは、すでにほとんどの出席者がそろっている場所だった。
300名以上の人々がいる。華やかで、色とりどりのドレスを身にまとった貴族のご婦人ご令嬢の目が一段と厳しい。
「美しい方ね。それにあのドレス」
「真っ白いドレスなんて……汚れが目立つ者を……いいえ、汚れだけではなく自分自身が目立ちたくて仕方がないのかしら?」
「エカテリーナ様がおかわいそうだは、ロバート様は何を考えていらっしゃるの?」
「見かけない顔だけれど、どこかの田舎貴族かしら?」
好き勝手に噂話をする人々の間を抜け、お兄様は陛下が出てくる場所のすぐ前まで進んでいく。
これも、暗黙のルールとして、陛下の近い場所は上位貴族。下位貴族になればばるほど遠くにいることになっている。
公爵家としては、陛下の椅子の真ん前がほぼ定位置となる。
定位置まで足を運ぶと、エカテリーゼ様の姿があった。
お兄様は公爵令息であり、お兄様にエスコートされればその場にいることは不思議ではないけれど。今日はお兄様のエスコートはないため、位にふさわしくない位置だと言わざるを得ない。
それとも、お兄様が、私をエスコートしなければならないから一人で先に行って待っていてほしいとでも伝えてあったのだろうか。
「ロバート様」
エカテリーゼ様は当然というように、お兄様の腕をとろうと手を伸ばしてきた。
「すまない、エカテリーゼ……君との婚約は解消すると何度も伝えたはずだよ」
お兄様がエカテリーゼの手が届く前に首を横に振った。
ざわざわと、お兄様の声が届いた人たちはざわめいた。
「まさか、ロバート様がエカテリーゼ様との婚約を解消?」
「あの白いドレスの女性が婚約者を奪ったのかしら?」
「見かけない女性ですもの。位の低い女性ではなくて?」
好き勝手に憶測で話が広がっていく。
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