第111話

 噴水で出会ったこと。これから婚約してまた会いたいと思っているということが伝わるはずだ。

 久しぶりにエミリーに会える。

 エミリー……。どうしよう。公爵令嬢として感情的にならなように教育を受けている。公の場では常に冷静に。自分を見失わないように。

 怒りも悲しみも……そして喜びも。

 冷静でいられるかしら。思わずうれしなきなんてしちゃったりしないわよね。戦争から無事に帰って来たエミリー。

 大好きなエミリーの顔を見て私……。

 ドキドキと、屋敷を出る前から緊張し始めた。

「大丈夫かい?リリー……もし、無理そうなら……」

 お兄様が、緊張で顔をこわばらせた私を心配して声をかけてきた。

「だ、大丈夫です。参ります。あの、それよりお兄様こそ本当にエカテリーゼ様のエスコートをしなくてもよろしかったのですか?」

 もう、今さらなんだけどね。

 会場についたらフォローしに私の元を離れるかもしれないなぁと思いつつ。

「ありがとうリリー。少しだけ会場についたらエカテリーゼと話をする時間を貰うけれど……今日は1日リリーから離れないよ」

 ニコリと、お兄様がぎこちない笑顔を見せる。

 ん?お兄様も緊張している?

 いや、お兄様は何度も殿下にも陛下にも会っているし……大規模な王室主催の舞踏会にも何度も参加しているから今さら緊張するとも思えないけれど?

 もしかして、私のエスコートが緊張するなんてことは……ない……こともないのかな?

 男性アレルギーで気分を悪くしないように、気を使わないといけないんだもの……。ごめんなさい、お兄様。

 やはり、皇太子妃になったら、女性には許可なく勝手に触れないようにというルールをいち早く浸透させるようにしないと。

 立場の弱い貴族令嬢を守るために……と。

 そうね、せっかくだからブルーレ伯爵との一幕も利用させてもらおうかしら。

 会場で私を男爵令嬢と勘違いしたブルーレ伯爵が腕をつかんで無理に言うことを聞かせようとしていた場面を見ていた人はいるだろう。

 それで、男爵令嬢が高位貴族に酷い目にあわされている現実を何とかしたいと思ったとかなんとか。

 うん、説得力が増すんじゃないかしら?そうなってくるとブルーレ伯爵にはある意味感謝ね。

 いえ、あれがあったから、私は噴水に向かったし、あれがあったからエミリーと出会えた……と、思えば感謝程度じゃないわね。大感謝!

 大感謝している相手を利用するなんて恩知らずかしら?

 うーん。

 と、別のことを考えている間に、馬車はあっという間に王宮へと到着した。

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