第105話
世界に一つだけの特別なデザインのドレス。刺繍の模様一つとっても、専門の職人が一目ずつ丁寧に刺していくのだから、当然時間がかかる。
「いいえ、何をおっしゃいます!そんな特別なドレスをおつくりすることができるのは大変光栄なことでございます。それに、ブーケ・ド・コサージュはすでに公爵令嬢リリーシャンヌ様が考案なさったということは広まっております。ファッションリーダーとしてすでに名前が広がりつつありますので、祝賀会に姿を現すとなれば、どのようなドレスを身に着けて登場するか注目されることでしょう」
え?
天使だと噂を聞いて興味を持っている人の注目に加え、ファッションリーダーとして注目されるってこと?
う、うわあ。
うわぁ。
やだ、どうしたらいいんだろう。助けてエミリー!
本当に私、大丈夫かしら?
「どのようなドレスに致しましょう」
「かわいいドレスがいいわ」
反射的に口にしてしまう。
「えっと……最近の流行とは違うものに……ということでしょうか?」
デザイナーさんが閉口してしまう。
ああ、そうね。
かわいいというと、子供っぽいもの。私のような年齢ではあまり着用しないというか……。
1番初めにピンクのドレスを着て行ったときの嘲りの言葉の数々を思い出す。
お母様が生きていたころに……お母様が私のためにデザインを考えてくださったピンクのドレス。それと似たようなものをお父様やお兄様が私に代わって注文してくださった、家族の愛そのもののドレス。
……お母様、お母様ならどんなドレスを私のためにデザインしてくださるかしら。
「リリー可愛いわ。お花みたい。いらっしゃい私の天使」
ふと、お母様にぎゅっと抱きしめられたことを思い出す。
ああ、そうだ。
私のことを天使だと言っていたのは、お母様が一番初めだったかもしれない。
お母様には私が天使のように見えたの?
ぎゅっと拳を握りしめる。
私は、何のために祝勝会に参加するの?
エミリーに会うためよ。
だから、エミリーが見て心が躍るようなドレスにしたい。
そして、家族が天使だと言っていた言葉を裏切るようなこともしたくない。
お父様やお兄様に恥をかかせないようなドレスにしたい。
会場に来ている他の人たちのためのドレスにする必要なんてない。
お父様とお兄様と……そして、エミリーが素敵だと思うようなドレスであれば十分だ。
「可愛くて……そして……天使のような……そう、白いドレスをお願いするわ!」
白というのはとても難しい色だ。
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