第106話
真っ白な布というのはそれだけで貴重なのだ。小さな汚れやくすみなどは、染めてしまえば分からなくなる。だけれど、真っ白な布はごまかしがきかない。それゆえに、高価だし、中途半端に安い布には欠陥が見えてみっともなくなってしまう。それに、汚れも目立ちやすい上に洗濯では落としきれないこともあり扱いが大変だ。
なので、白いドレスというのはほとんど見かけない。刺し色として白を用いることはよくあるし、レースなど白いレースはとても好まれる。ハンカチなどの小物も白だ。
白は多くの人に好まれる色。でもドレスにするには厄介な布。
「白、ですか?それは新しいですね!ああ、そうだ。新しい技術で、白い布をより白くする漂白というものが出たと聞きました。もしかして、漂白技術を世に広めようと?さすがはリリーシャンヌ様です」
「あ、ごめんなさい、漂白のことは知らなかったわ。そうなの。ということは、白い布は昔よりも扱いやすくなったということ?」
「ええ、そうなのです。私もまだ詳しいことは分からないのですが、聞いた話によると、染色してある布よりも洗濯も楽だとか。落としきれない汚れを再び漂白することで真っ白になるそうで……」
そうなのか。なるほど。
「ということは、色のついた糸で刺繍をするよりも、本当に何もせず、真っ白なドレスの方が扱いやすい……汚れを必要以上に気にしなくてもいいということかしら?」
まぁ、わざと汚すような行動をとるわけではないけれど……やはりある程度汚れはする。汚れてしまえば、濃い色に染めなおして使うこともするけれど……。廃棄することもある。
それが真っ白であれば漂白技術でよみがえるのか……。
「薄手の透き通るような白い布や、光沢のある絹など、白い布も組み合わせ次第で色々な表情が見せられます」
デザイナーさんが紙にいくつかのデザイン案を書きだした。いつもひらめきがすごい。
「ショールのような布を、ウエストから巻き付けるようにしてスカートを覆えば、白だけではないようにできるのでは?ああ、ブーケ・ド・コサージュで留めることも出来そうですわね。白いドレスであれば、逆に華やかな色のブーケ・ド・コサージュが映えるかもしれませんわね」
ギラリと、デザイナーさんの目がきらめいた。いや、ぎらついています……。
「そうですわ!ドレスと同じ布を使ったブーケ・ド・コサージュも素敵ですが、真っ白な布であれば……どのような色合いのブーケも似合うことでしょう。オーバースカート……巻きつけるスカートもとても素晴らしいアイデアです。それならば、1着のドレスが何通りにも……そう、布の巻き方一つでも色々と違った表情を見せることが……あああ、なんて素敵な!素晴らしい、素晴らしいですわ!リリーシャンヌ様!流石、ファッションリーダーです!」
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