第88話

 ポロポロと涙が、話をするたびに落ちる。

「ありがとうございます。あの、私……至らないところばかりなのに……」

 応援してくれる気持ちがうれしい。

「あー、ほら、リリー様。また自分を卑下するようなことをおっしゃってますよ。大丈夫です」

 ローレル様がニコニコとほほ笑んでくれる。

 綺麗な刺繍が施されたハンカチで涙をぬぐわれる。

「あ、でも、皇太子妃の婚約者が決まってしまえば、私たちが王都にい続ける理由はありませんわね?」

「え?」

 ローレル様の言葉に、アンナ様とハンナ様もハッとした表情を浮かべた。

「皇太子妃になれといわれて、私は王都の舞踏会に出席するために王都に行ったんですもの……」

「ローレル様……わ、私たちは、皇太子じゃなくても婚約者を探しなさいと言われていますわ。ローレル様は、そうじゃなかったのですか?」

「そうねぇ、本当言うと結婚ってあまり興味がないのだけれど、私も両親に皇太子殿下は婚約しましたけれど引き続きどなたかよい方がいないか探そうと思いますと言ってみようかしら?」

 ローレル様がうーんと考え込む。

「馬鹿にした人の鼻を明かしたいっていう母の目的が達成できるような方……第二王子とか?」

「え?もし、ローレル様が第二王子と結婚するようなことがあれば……」

「リリー様が、私のお義姉様になりますわね」

 にこっと美しい笑み。

「わ、私が、ローレル様のお義姉様?ええええ!義姉妹に慣れるのはうれしいですけれど、でも、でも、私がお姉様?」

 アンナ様とハンナ様がふふふふと楽しそうに笑っている。

 ローレル様もついにふっと噴出した。

「冗談よ、第二王子殿下にはすでに婚約者がいらっしゃいますでしょう」

 そうだったっけ。今まで、社交界で生きて行くつもりがなさすぎて不勉強だった。

 本当に皇太子妃になるつもりなら、勉強しなければ。一通りの貴族の勉強を追えた3年前から後のことは何も知らない。帰ったら、勉強を始めよう。

 庶民たちの生活もよくわかっていない。戦後に何が起こるかさえ……。

 何もかも勉強不足だ。

「私、帰ったら勉強します。知らないことが多くて恥ずかしい……」

「あら、でしたら私が勉強を教えましょうか?」

「え?ローレル様が?」

 ローレル様が頷いた。

「皇太子妃にさせたい母が、どこから王妃教育に関して情報を得て、私にやたらと身につけさせようとしたのよね……刺繍やレース編みのような細かな作業は苦手ですが、貴族の力関係や領地ごとの特色問題点などの知識はありますわ。ああ、隣国の情勢も」

 ローレル様が、私の家庭教師になってくださるってこと?

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