第62話

 もちろんエイミーに会いたいと思っていたのも本当のことだけれど。学園にも通ってなくて友達のいなかった私は、エイミーだけじゃなくてローレル様やアンナ様やハンナ様と会えるのも楽しみで……

「ふふ、ありがとう。それにね、アンナやハンナは特に、リリー様に救われたのよ?」

「私、何もしていませんけど?」

 ローレル様が私の顔を覗き込んだ。

 抱きしめられていた体が離れたことが少し寂しい。……ああ、そう。私のことを思って抱きしめてくれる人がいたことが嬉しい。

「本当に、リリー様はもう少し自分に自信を持った方がいいと思うわ。ブーケ・ド・コサージュ。あれのおかげで、ドレスを頻繁に新調できないご令嬢がどれほど助かったのか。アンナとハンナも、早速ブーケ・ド・コサージュのとりこよ」

「あれは、ローレル様が、ドレスをリメイクすればいいと言ってくださったおかげで」

 ふっとローレル様が笑った。

「ふふ、アンナやハンナがいつも、新しいドレスが買えないから工夫しているのを見ていたから出た言葉よ。まさか公爵令嬢に対して言う言葉ではありませんでしたね」

「わ、私っ!ローレル様が私のことを思って言葉をかけてくれたということが分かってとても嬉しかったんですっ!」

 ローレル様がふっと笑って私の鼻をつんっとつついた。

「こんな可愛らしい顔で、私を幸せな気持ちにさせてくれるのに、私なんかなんて思わなくていいのよ?」

「え?あの、わ、私……」

 私が嬉しかったって言っただけなのに。

「リリー様が、何が原因で私なんかと思っているのかはわかりませんが……。私なんかとうじうじとしている時間があるのならば、原因を取り除努力をするべきだと私は思うわ」

 努力……しても、男性アレルギーがどうにかなるわけではない。

 そう思ったのが私の顔に出たのか、ローレル様が言葉を続けた。

「だけれど、世の中には、例えば生まれだとか……努力ではどうにもならないこともあるわよね」

 ああ、確かに。男性アレルギー以外でも、どうせ私は男爵家の生まれだしとか、どうせ俺は三男だしとか、努力しても変えられないことは色々とある。赤毛に悩む主人公の物語もあったな。どうせ私は美しい金の髪を持たない……というような表現があったような。

「だからといって、どうせ私なんかと言って何も努力をしないのは違うと思うのよ。努力でどうにでもなることは多いわ。自分ができることを全て放棄するなんて、おかしなことでしょう?」

 頭をガーンと殴られたような気持ちになった。

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