第61話

「分かりますわ。私も、身に覚えがありますもの。辺境伯令嬢じゃなければ声をかけなかった。お前みたいなかわいげのない女、辺境伯令嬢じゃなきゃ誰も嫁にしようなどと思うものか!などと、陰口を言われたことがございます」

 え?

「ローレル様のように、素敵な女性に何故そんなことを!」

 思わず頭に血が上る。

「ふふ、ありがとう、リリー様。……リリー様は、ご自身を馬鹿にされても腹を立てないのに、私のために怒ってくださるんですね」

「私なんか、色々言われても仕方がないんです!でも、ローレル様のような素敵な女性を馬鹿にするなんて、絶対に許せません!ローレル様は、舞踏会で戸惑う私のような娘にも親切に声をかけてアドバイスしてくださいました。それに、私が正体を黙っていたと知っても、責めるようなことはなくて……」

 あまりに頭にきすぎて、目じりに涙が浮かぶ。

 ふわりと、柔らかいものが体を包んだ。

「ロ、ローレル様?」

 ローレル様の両腕が伸びて私の背に回っている。

 ハグされてる!

「私なんかなんて言っては駄目よ。貴方は素敵な女性なのだから。私が、友達になりたいと思うんだもの。素敵じゃないはずは無いでしょう?」

「ロ、ローレル様……」

 でも、私は……男性アレルギーがあって、お父様にもお兄様にも迷惑をかけている……本当なら、しかるべき相手と結婚して……。領主の妻、貴族としての務め、国のために尽力するべきなのに。

「でも……私、舞踏会でも迷惑をかけて……ローレル様にも……」

 エカテリーゼ様には仮病だと言われてしまったけれど……むしろ、仮病だと思われるくらいの方がいいのかもしれない。

 男性アレルギーで、男の人が近づくだけで咳き込んだり倒れたりする人間など、なぜ舞踏会に来たのかと。邪魔だから来るなと言われても仕方がない。せっかくの場所で倒れる人間がいたら、場がしらけてしまうだろう。本当に迷惑な……。

「馬鹿ねぇ。リリー様は。私は少しも迷惑だなんて思ってないわよ。それどころか、とても救われているわ」

 え?救われている?

「似合いもしないオレンジのドレスを着る苦痛から救われた。皇太子妃の座を求めて参加するだけの退屈な舞踏会から救われた」

「え?」

「リリー様にお会いできるのも楽しみの一つになっていたのですわ」

「耳元で楽しそうなローレル様の声が弾む」

「わ、私も、あの、ローレル様にお会いするのが楽しみでしたっ!」

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