第59話
「それが、裏目に出た」
裏目?そうよね。お父様が手をこまねいているわけないものね。
「勝つ自信がないから、必死に戦争を止めようとしているのだ、準備をされるまえに早く攻め入るべきだと、サ国は乗せられた」
あー、あー……。
「もう、戦争は避けられない、と言うことなのですね……」
外交的な手は、すでに尽くしているのだろう。……お父様がずっと忙しくしていたのもそれが理由に違いない。
サ国を治める人間は、シ国の手の者の言葉を妄信して、こちらがどう動こうとそれを戦争へとつなげる理由にしてしまうということ……。
お父様が席を立ち、私の隣に椅子を置いてそこに座った。
「大丈夫だよ、リリーシェンヌ。……力の差は圧倒的だ」
お父様が私の肩を抱き、引き寄せたそうに手を動かす。
それでも、私に触れようとはしない。
不安がる娘を慰めることもできないお父様。不安でも縋りつくこともできない私。
お母様がいれば、私を抱きしめてくれたのに。
男性アレルギーなんて無ければ、お父様に抱き着くことができたのに。
エミリーなら……。
「内偵の話では、サ国の軍勢はせいぜい2000。我が国は、北の領地や周辺領地の応援だけでも、3000。そこに中央から10000の兵が派遣される」
二千対、一万三千。しかも、こちらが防衛側。現地での兵糧の準備などもしっかり行える。
確かに圧倒的な差がある。大人が赤子をひねるようなもの。
だけれど……。
「窮鼠猫を噛む……」
追い詰められたサ国が何をするのかまでは分からない。
それに、いくら勝利は約束されていると言っても、全く損害無くというわけにはいかないだろう。
「まぁ、よほどの馬鹿でないかぎり、軍勢の差を見て、シ国がサ国を騙しているという話を聞けば刃を交えることなく撤退するよ」
よほどの馬鹿だったら?
「まぁ、だからこそ陛下も、皇太子殿下の出陣を許可したわけだからね」
「は?殿下が出陣?」
首をかしげる。
王族が出陣する場合って、通常戦況が悪化している場合に兵を鼓舞するためだとか、第二第三王子とか、皇太子以外だよね?
あとは、単に武闘派で戦争好きの狂人か。皇太子ってそっちの人?
「問題なく圧勝できる、傷一つつけることなどできないと分かっているからこそ、皇太子殿下のわがままを陛下も聞き入れたんだよ」
なんでそんなわがままを言ったのかな?
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