第24話  エミリー視点

エミリー視点です(短めです)


 かわいかった。

 夢かわいい!ってああいう時に使う言葉なんだわ!

 フワフワとフリルが動くたびに揺れる。淡いピンクのドレス。

 ああ、かわいかった。私もあんなドレスがいつか着てみたい!無理だとは分かっているんだけれど……。

 それでも、いつか、一度でいいの。

 それから、その夢かわいいドレスを着ていた、リリー。

 食べちゃいたいくらいかわいい!って、ああいう子に言う言葉なんだわ!

 もう、本当に、思わずかぶりついちゃいたくなるくらいかわいかったもの。

 ああいう女の子に生まれたかった。理想の姿よ。理想の。

 ああでも、私がリリーのような姿で生まれて来ていたら……。

 1日中鏡ばかり見て過ごしてしまいそうだわ。

 今の私もおかしな人だと思われているけれど、1日中鏡見てうっとりしていたらそれはそれでおかしな人だと思われてしまうわね。

 うん、自分じゃなくて理想の姿がリリーだったからいいのかも。

 リリーを見ているなら、おかしな人だと思われないわよね?

 ああ、でも……1カ月後まで、会えないのよね。

 ベットに入って、従者を部屋から出て行かせたあとにリリーからもらったハンカチを取り出す。

 幸い、風呂はある年齢から一人で入っている。従者に体を洗われるのがはずかしのよ。

 男に裸を見られるなんて、乙女として恥ずかしくない方がおかしいでしょう?しかも、体を隅々まで現れるのよっ!

 何の拷問よ!

 自分のことは自分でなるべくしたいと説得して、風呂も着替えも身の回りのことは一人でさせてもらってるわ!

 というか、従者で不満があるならば、侍女に替えようかとも言われたのよっ。

 それって、つまり、男として侍女に色々面倒見てもらえって話は、つまり……ダメよ、ダメ。これ以上は考えちゃだめなのよっ!

 そんなこと、とても受け入れられるわけないわ!男に裸を見られるのも拷問だけれど、男として女に色々されるのも拷問よっ!

 ただでさえ、この体を持ち余しているというのにっ!

 まぁ、とにかく、お風呂も着替えも一人でしているおかげで、ハンカチが見つからずにすんでいるの。

「ああ、細かく繊細に編み込まれたレースのなんと愛らしく美しく可愛らしいこと……」

 光に透かして見ても、遠くに話してみても、近くでじっくり見ても、きゅんです、きゅんっ。

「この、花の刺繍も素敵。リリーは刺繍が上手ね。お姉様がしていた刺繍は、これに比べればとても刺繍と呼べるものではなかったわね……」

 ピンクの小さな花が散らされている。これまたなんてかわいいのかしら!薔薇や牡丹のような迫力のある花ではないところもまた素敵よ。

 手に乗るくらいの小さなハンカチ一つで、こんなに胸がいっぱいになって楽しいんだもの。

 かわいいものに囲まれて暮らしたら、どれほど幸せなのかしら……。

 目をつむって、飾り気のない天蓋がレースで飾られているのを想像する。

 それからカーテンは、淡いクリーム色に、リリーがハンカチに施したような、小さなピンクの花が入った物がいいわ。

 ベッドは猫足にして、白く塗ってもらいましょう。

 ああ、素敵。

「どこかで可愛いものに囲まれてリリーと一緒にで暮らしたいわ~」

 あら?

 あらら?

 何を言っているの、私ったら。一人で暮らしたいと思っていたわよね。

 どうして、リリーと一緒に暮らしたいなんて言っちゃったのかしら……。

 ハンカチに視線を落とすと、リリーのRの文字が目に入った。そっと、指先で触れてみる。

「リリー……」

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