男性アレルギー令嬢とオネエ皇太子の偽装結婚 ~なぜか溺愛されています~
とまと
第1話
「修道院に行くだと?許さん、許さん、許さんぞ!」
娘には甘いお父様が珍しく激怒している。
私が「修道院に行こうと思います」と一言長年の気持ちを伝えたがためだ。
「ですが、お父様……私は」
「公爵家の令嬢が修道院に行くなど、皇太子の婚約者を階段から突き落として殺そうとした罪に問われた時くらいだぞ!」
お父様が言うことも確かだ。
我が国では、自分よりも身分の高い者に対して行った罪は重たい。逆に自分より立場が下の者に行った罪は軽い。
公爵令嬢ともなると、同じ公爵家か王家の者に対して罪を犯した場合は相手が負った被害の5倍返し。身分が下の者に対しては、被害の最大でも同等。相手の身分によっては、半分以下。無罪になることすらある。
当然だけれど、横領などは国……つまり王族への犯罪になるため罪は重い。庶民も王の民なので、むやみに民……つまり王の財産を奪う行為なので王族に対してん犯罪となるため罪の重さは内容により大差がつく。
つまりは貴族同士のもめごとの場合は、ということだ。
公爵令嬢の私であれば、一番思い罪が死刑。当然ながらめったにない。王族に何かしようなんてね、しようと思ったって、王族ってがちがちに護衛がついていて、できるはずもないのよ。プロに依頼するくらいしか。
で、死刑の次に思い罰が、貴族としての地位はく奪のうえ修道院行きなわけだ。
修道院にいる元貴族の娘……それだけで、世間は「犯罪者」だと認識する。
いや、修道院は犯罪者のための施設じゃないんだけれど。貴族の娘に関しては罰として入れられる場所の意味合いが強いのよ。
修道院としても、貴族の娘の親たちからの支援はありがたく、犯罪者と分かっていても受け入れてくれるからね……。
つまりは、だ。結婚したくないと修道院に入る女性は犯罪者と同じ目で見られ、同じように扱われる……。
「ですが、お父様、私は……」
「分かっている。結婚したくないというのだろう?」
お父様の怒りは少し収まったようで、テーブルの上に置いてあったカップからごくりと水を飲んで喉を潤す。
ふぅとゆっくりと息を吐きだすと、私の頭を撫でようと手を伸ばして、すぐにひっこめた。
お父様がちょっと悲しそうな顔を見せる。
「お父様大丈夫です」
ニコリとほほ笑んで、お父様の手を取り、頭に導く。
撫でてほしい。もう17歳。社交界デビューするのは通常15歳だ。大人として扱われる年齢。もう子供じゃない。
だけれど、子供のように頭をなでてほしかった。
お父様が私の頭をゆっくりと愛しそうに撫でてくれる。
だけれど、その時間は長くなくて。
「すまん、リリー……赤くなってしまったな」
どこか見える場所が赤くなってしまったようだ。お父様が心配そうな顔を見せる。
「大丈夫です。息も苦しくありませんし、痒くもありません。赤いのはすぐに収まります。それよりも、お父様に撫でていただけてとても嬉しいんです」
「リリー……」
本当は、ぎゅっと抱きしめてほしい。もう17歳になるというのに、親に抱きしめてほしいなんておかしいだろうか。
だけれど私は、10歳でお母様を亡くしてから、家族に抱きしめられた記憶がない。
お父様にも、お兄様にも……。
唯一私を抱きしめてくれた家族……ううん、抱きしめることができた家族である母が亡くなってからは……、極度の男性アレルギーを持つ私をお父様もお兄様も抱きしめることはない。
そう、私は、男性アレルギーを持っている。
相手によって、出る症状は様々だ。一番症状が出ないのがお父様。触れてもせいぜい肌のどこかが赤くなる程度。ただ、抱きしめたりあまりに密着すれば全身に湿疹がでたりすることもある。
成人前の子供であれば、大丈夫。だけれど、男児から男性になってしまうともう駄目だ。
アレルギーが強く出る相手とは、触れなくとも、息がかかる距離にいるだけでも痒くなってくる。鼻水が出て目が充血して。
万が一そんな相手に触れられれば、全身に発疹が出て、熱が上がり、呼吸ができなくなって、命の危険すらある。
お医者様も原因はよくわからないと。そのため、治療もままならず、もしかすると成長とともにアレルギーが直るかもしれないと今日まで来た。
だけれど、治る見込みなど全くない。
貴族の娘ともなれば、成人までには婚約者を持ち、20歳までには結婚するのが当たり前という世界だ。
17歳になるまで、社交界に顔を出さず婚約者も持たない私。学校にすら通っていない。
極力男性と接することなく今まで過ごしてきたのだ。
「ずっと家にいればいい」
お父様はそう言うけれど。
屋敷から出ずに一生を終えることを想像してしまった。
女修道院は、女性しかいない。王城の敷地の3倍ほどの広い場所で、共同で畑を耕し、縫物や織物をして売り物を作っていると聞いた。
屋敷に籠って一生を終えるよりも、修道院で生活した方が幸せなのかもと思ったのだ。
「お父様が生きていらっしゃる間は、私は公爵令嬢ですけれど……お父様が亡くなり、お兄様が後を継いだら、……私は厄介者の居候です」
「ロバートが、お前を厄介者扱いするわけないだろう?」
もちろん、お兄様がそんな風に私を思うとは思えないけれど。
それでも、お兄様が結婚して子供も生まれて……私の使っていた部屋は、次代の公爵令嬢……お兄様の子供がちが使うようになるだろう。
私は、男性と接しないようにと、離れに住まわせてもらうようになるのか……人との接触がますますなくなってしまうのは間違いない。
色々考えると、やはり行きつくのは女修道院。
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