不埒なる侵入者

 ━━2日後


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 ★デイリーミッション★

 毎日コツコツ頑張ろうっ!

 『無視される狂行』


 無視される狂行 2時間/2時間


 ★本日のデイリーミッション達成っ!★

 報酬 『悪魔の経験値』×6


 継続日数:308日目 

 コツコツランク:ブラック 倍率100.0倍

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 朝からデイリーミッションをこなした。

 今日はウサギの動く城の出発日だ。

 

「よし、できました」


 屋敷の外にでると、ラビが玄関前で屋根を見上げて満足げにしていた。

 

「ご主人様いいところにいらっしゃいました。これを見てください」

「屋根とか窓とか、いたるところにリボンとお花がついてるんですけど」

「記念すべき出発式ということで、僭越ながら華やさを添えさせていただきました」

「はぁ」


 まあ、もう好きにさせよう……。


「それじゃあ俺は最後に方々をまわってきますので。帰るのは少し遅くなるかもです」

「あ、お待ちを」


 ラビは言って、家のほうを見やり「イグニス!」と大声で呼んだ。

 玄関からイグニスが走って出てきて、ラビの横でピタッと止まる。


「ウサギの動く城の警備はおまかせください。私とイグニスが必ずご主人様の帰る家をお守りいたします」

「い、行ってらっしゃいませ、フィンガーマン、様」


 イグニスさん、頑張ってるな。

 

「行ってきます」


 綺麗なお辞儀をするふたりのメイドに見送られ、俺はミズカドレカへの最後の挨拶にでかけた。


 

 ━━ラビの視点



 ご主人様が出かけていきました。

 でも、もう心配はしていません。

 ご主人様は必ずこの家に帰ってきてくれます。

 もし帰ってこなくても、こちらから迎えにいける。


「移動能力。なんて素晴らしいのでしょう」

「ラビお母さん、この飾りはやりすぎなのでは」

「なにを言うのですか、イグニス。記念すべき門出は華やかに催さなければなりません。でなければご主人様の格も疑われてしまいます」

 

 イグニスは優秀です。いろんな面で。

 まず可愛いので華やかさがあります。

 そして最低限、屋敷を守れる武力を持っています。

 物覚えもいいです。教えた仕事はすぐに覚えてくれます。


「さてと、もうちょっと飾りを盛りますかね」

「え、まだ盛るのですか、ラビお母さん……」

「当たり前ですとも、これでは全然足りな━━━━むむ」


 その時でした。

 敷地内に異質な気配が踏みこんだのは。

 イグニスの襲撃以来、敷地に足を踏みいれた瞬間に、侵入者をわかるように結界を張っておいたのです。それが反応したのです。


 黒い長髪の異邦人が立っていました。

 切れ長の瞳で片手に銀色のバッグを握ってます。

 恐ろしいのはその冷たい表情。

 間違いなく人殺しに慣れているタイプの顔。


「何者ですか」

「ラビお母さん、あの男、めちゃくちゃやばいんじゃ……」


 イグニスにもわかってるようです。

 あの男の放つ途方もない覇気。

 これほどの圧力……ご主人様以外で放てる者がいるなんて。


 男は左右に視線を動かしたあと、私で目線を止めました。


「俺はブラッドリーという者だ。フィンガーマンがこの屋敷にいるって話だが」

「なるほど、すべてが繋がりました」

「あ?」

「ラビットアイはごまかせません。ご主人様はかねてより何者かに襲われることを危惧しておられました。すべての点と点が繋がりました。つまりあなたこそ、ご主人様を襲いにきた襲撃者ということですね」

「ぇ? いや、違うが。俺はフィンガーマンの仲間で、長旅の末にようやくこおミズカドレカに到着したばかりで━━━━」


 とそこへ、庭で鍛錬していただろうセイラム様が、騒ぎをききつけて屋敷の表にやってきました。片手に剣を、片手にタオルを持って、今日もいい汗をかいております。


「ラビさん、ふわりがお腹すかせて抗議しはじめたんですが……この男の人誰ですか?」

「セイラム様、おさがりください。この男は見た目通りの凶悪な殺し屋にちがいありません。ご主人様を殺しにきたのです」

「なんと! 師匠の命を狙う輩はこの私も見過ごすことはできません! ラビさん、私も加勢します」


 セイラム様の助力をいただけるのはありがたいことです。


「にゃ〜!」

「お腹空いて機嫌が悪いフワリさんもやる気です! フワリさん、師匠に教わった連携、あの邪悪な顔をしたロン毛男にお披露目といきましょう」

「にゃあ!」


 セイラム様の参戦に呼応して、フワリ様まで。

 フワリ様はご主人様の眷属であり非常に強力なお方。

 心強いです。これなら負けることはないでしょう。


「それはノルウェーの猫又……っ、おい、俺だ、ブラッドリーだ、わからないか、厄災島じゃわりと遊んでやってたのを忘れたのか」

「フワリさん、あなたのような極悪顔さんなんて知りませんよ。ね、フワリさん」

「にゃ(訳:誰にゃこいつ)」

「俺のことを覚えていないのか。あるいは種族が同じだけの別猫か。しかし、異世界にもノルウェーの猫又って発生するものなのか……ん、待て、お前たち、まじで武器を構えてるじゃないか。もちつけ、まずは話をだな」

「御託はいりません。イグニス、セイラム様、フワリ様、いきますよ」

「待て待て、もち、ちょま━━━━」

 

 この目つきの悪い不埒な侵入者、絶対にぶちのめします。ていやー!

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