鳥さんの行方

 湖岸に鎮座する威風堂々たるもふもふ様。

 前足を綺麗にそろえて香箱座りをすればもはや可愛さの死角は存在しない。前から見ても、横から見ても、上から見ても、もちろん下から見てもかあいい。


「にゃあ〜」

「す、すごいテイムモンスター……!」

「いったいどこの誰がこんな雄大で、こんな、こんな……っ」

「か、かわいい、可愛すぎる……っ、生物の限界を超えてる……!?」


 セイラムについていくと、うちのフワリが魔導魔術学校の生徒たちに囲まれてチヤホヤされていた。猫又スキルで復活するとは知っていたが、思ったよりお早いご帰還だ。

 周囲の生徒たちは、彼女のもふもふを触りたいのだろうが、マナーがなっているらしく、手を伸ばそうとしても実際に触れはしない。他人のモンスターに勝手に触っちゃいけないとか教えられてるのだろうか。


「こんなもふもふを知ってしまったらきっと気絶してしまう!」

「くっ、触りたい、触りたいのに、身体が危険だってわかってる……っ、一度触れれば最後、二度と離れたくなくなるって……っ!」


 もふもふに恐怖していただけだった。少年少女らは正しい。このフワリのモフみはいやばクスリだ。危ないクスリ。生半可な気持ちで手を出すべきじゃない。


 フワリの横、銀色の毛並みのこれまた見事なもふもふ生命体がいる。狼だ。ふわっふわの狼だ。フワリほどのサイズ感はないが将来が楽しみである。


「ゔぉるる!」

「あ、セイラム」

「師匠、こちらが重要参考人のステラ・トーチライトさんなのです!」


 セイラムはばばーんっと自慢げに両手でしめす。

 この少女、さっき見たな。セイラムたちとまとめてヴァン・リコルウィルにしばかれてたメンツのひとりだ。相変わらず顔が怖い。


「どうも、フィンガーマンさん、ですよね」

「ええどうも、うちのシマエナガさんのことを知ってるとか」


 ステラは膝の上に頭を乗せている愛犬ヴォルルをなでなで。


「そっか、幸運の鳥ラッキーバードさんはあなたを待って探していたんですね」


 ステラはほがらかな表情で、うんうんっとうなづき、ほろりと涙をこぼした。

 俺はビクッとして「大丈夫ですか」と収納空間からハンカチを取り出す。あぁ、間違えたこれティッシュだった。こっちこっち。


「あはは、大丈夫ですよ、すこし感極まっただけです」

「作用ですか。あの、幸運の鳥って」

「あぁ、鳥さんのことをそう呼んでたんです。本当にたくさんの奇跡を私のためにもってきてくれたんです。すごく優しくて、すごく強くて……シマエナガさんって言いましたか? それが鳥さんの名前なんですか?」

「ええ。いくつか呼ばれ方はありますが、基本はシマエナガさんです」

「鳥さんの名前、教えてくれてありがとうございます」

「ゔぉるる〜♪」


 シマエナガさんとの思い出を語るステラの顔は楽しそうなものだった。

 どこか寂寥感を感じさせる眼差しだが、それらは力強い勇気を彼女をもたらしている。シマエナガさんは、異世界で友情を見つけ、その友達のためにたくさん思いやりのある行動をしたのだろうと推し測ることができた。

 

「鳥さんは必死に仲間を探していました。あなたを待ってたんです、フィンガーマンさん。でも、同時に正体を隠したがってもいました。なにかに狙われているような雰囲気で」


 シマエナガさんも仮想敵:ミスターZの存在を意識していたのだろう。


「でも、あなたなら間違いない」

「どうして俺を信用できるんです」

 

 ステラはあたりを気にして小声で話す。


「あのヴァン・リコルウィルを倒したのはフィンガーマンさんなのでしょう? 見てましたよ。超常的な力……鳥さんとどこか似たものを感じたんです」


 そういえば、彼女は俺とヴァン・リコルウィルの戦い一部見ていたのだった。


「鳥さんは正体を隠したがってましたから、私もその行き先は秘密にしようと思ってたんです。新聞部の取材にだって応じませんでしたし。それが友達ためだと思って。でも、あなたには教えたい。いや、教えないと。鳥さんが待ってます。はやく行ってあげてください」


 ステラはポケットから地図をとりだす。地図は地底世界のある地域を示したもののだった。


「鳥さんが向かったのはヴォール湖と呼ばれる、西にある湖です」

「この湖とは違うと」

「ここはアブラザ湖です。ヴォール湖はもっと大きくて、浅い……湿地のような場所でして、かつては都があったらしくて。古い土地で、いまは忘れられ、足を運ぶ者もおおくないと聞きます」


 ステラはシマエナガさんの向かったというヴォール湖への行き方を教えてくれた。


「そういえば、儚い仲間がいるからと急いでいる様子でした。きっと緊急事態だったのだと思います」


 儚い仲間……あぁ、まずい、たしかにそれは緊急事態だ。

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