七つの英雄 序列第7位『黄金の指鳴らし』フィンガーマン
━━赤木英雄の視点
話をしよう。俺は悪くないんだ。本当に悪気があったわけじゃないんだ。相手はちょっと歯応えあったじゃろ? あのキモい巨人よ。なんか再生能力っていうのかな、そんな感じの力持ってやん? ほならね、一撃で倒し損ねたらこっちもピンチになるやんか? 正論やろ? 正論すぎて関西弁になってしもうたどすえ。
「師匠……これは流石に……」
「セイ」
「はい……」
「まだ焦るような時間じゃあないです」
「……っ! 流石は師匠、これは英雄的余裕……!」
焼け落ち、崩れ落ちる立派な学校を背景に、俺はキラキラと目を輝かせるセイを洗脳していく。まだ焦る時間じゃない。損害賠償請求が来てから焦ればいいんだよ━━。
城門街の湖岸から、燃える城を見上げる。
湖岸にはたくさんの生徒たちが呆然として立ち尽くしている。教師だろう大人たちも言葉を繋げず、ただ呆然としている。みんな俺が『超捕獲家』で収納して救出した者たちだ。『超捕獲家』で人間を収納すると、体感時間が止まるらしく、排出された際、いきなり景色が切り替わったような錯覚に襲われるらしい。
なので救出された身からしたら崩れる校内から、いきなり対岸に移動させられ、自分達の通ってる学校の死に行く姿を見せられていることになる。立ち尽くすのも無理はない。
俺は全然悪くはないが、この場にいるのは気が引けたので、そっと湖岸をあとにする。
そういえば、さっきピコンピコンっと、懐かしい音が聞こえていた。
ステータスを軽く確認してみよう。
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赤木英雄
レベル378
HP 2,931,300/9,320,000
MP 1,230,040/1,470,000
スキル
『フィンガースナップ Lv9』
『恐怖症候群 Lv11』
『一撃 Lv11』
『鋼の精神』
『確率の時間 コイン Lv2』
『スーパーメタル特攻 Lv8』
『蒼い胎動 Lv6』
『黒沼の断絶者』
『超捕獲家 Lv4』
『最後まで共に』
『銀の盾 Lv9』
『活人剣 Lv7』
『召喚術──深淵の石像Lv7』
『二連斬り Lv7』
『突き Lv7』
『ガード Lv6』
『斬撃 Lv6』
『受け流し Lv6』
『次元斬』
『病名:経験値』
『海王』
『海の悪魔を殺す者』
『デイリー魚』
『選ばれし者の証』 NEW!
装備品
『クトルニアの指輪』G6
『蒼い血Lv8』G5
『メタルトラップルームLv4』G5
『迷宮の攻略家』G4
『血塗れの同志』G4
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レベルアップしてるじゃないか。
どうりで意識が飛びかけるほど気持ちいいと思った。
俺は救出活動中にトリップしていたのか。なるほど。
新しいスキルが増えているな。
スキル名『選ばれし者の証』だと? あれ、ブチさん?
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『選ばれし者の証』
選ばれし者のご都合主義
不可能を可能にする者
幸運に愛されすぎた者
周囲への被害が出にくくなる
【解放条件】『選ばれし者の証』が過労死する
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【解放条件】『選ばれし者の証』が過労死するって……。俺は自分のシャツの胸元、黒艶のある上品なブローチがいつもいる場所を撫でる。針を外し、手のひらに乗せる。ブチにもう艶はなく、ボロボロになって、ひび割れていた。
「ブチ、お前……逝くのか……?」
ブチは応えるように一瞬、キランっと輝いた。
そうか。酷使しすぎたんだな。あまりにも周囲のみんなを幸運だけで守りすぎたんだ。ありがとう、お疲れ様。
物質としての姿は失ったかもしれない。でも、スキルとして転生した彼ないし彼女は、これからも俺のそばにいてくれる。効果としてはブチが生涯を通して励んだ、周囲への被害抑制を継承してくれている。これからも陰ながら俺のことを支えてくれるはずだ。
そっと撫で、俺は胸元に付け直す。
もう異常物質としての能力はないかもしれない。
でも、こいつはいつまでも俺の相棒だ。これからもよろしくな。
━━しばらく後
俺は城門街をパトロールして、相棒の仕事を見届けた。
奇跡的に死者はいなかったという。
「なんて日だ、私の商会がぁあ……」
錬金術商会に立ち寄ると、両手で色鮮やかな黄緑髪をかきむしっている女性を発見した。商会長の怪物造りニッケだ。
「一体どんな馬鹿な不運に見舞われれば、天から降ってきた鍾乳石に仕事場兼住居を貫通されるって言うんだっての! 虫の知らせで飛び出して九死に一生を得たのはいいけどさ!」
「こんにちは。あらら、これはひどい。完全に潰れちゃってますね」
「フィンガーマンか? お前、学校に殴り込みに行ったんじゃ」
「あれが見えないんですか?」
俺は親指で背後を示す。
ニッケは燃え上がるヴォールゲート魔導魔術学校を見やる。
「うあああ!? が、学校が……!」
「すべてはヴァン・リコルウィルの仕業です。やつを許しちゃダメです」
冒険者組合の業務を委託されているくらい信頼度があり、社会的な影響力のありそうな錬金術商会だ。ニッケに真犯人の情報をリークしておけば恨みのまとはそれるはず。いや、別に俺が悪いわけじゃあないんだけどさ。保険よ。保険。もし万が一にも誰かが「フィンガーマンが大災害を引き起こした!」とか言い出したら敵わない。
「うぎゃあ、許せないヴァン・リコルウィルめ! 好き勝手やりやがって!」
「そうです、その意気です。もう一声」
「ヴァン・リコルウィルは最悪なやつだ!」
素晴らしい。
「ヴァン・リコルウィルは本当にとんでもない悪党でしたな」
「「ん?」」
第三者の声が割って入ってきた。
見やれば馬車が隣に止まっていた。
恰幅のいい男が降りてきて、腰裏で手を組んで立つ。
肉が折り重なる多重顎の担い手、ベルモット・ラジャーフォードじゃないか。
ミズカドレカの闘技場でさんざん悪事を働いてきた強者変態論者だ。
「我が王よ、お久しぶりですな」
「なんでここにいるんだ」
「私は強者あるところにいるのです」
「ほとんど魔法だな」
ベルモットは大きな巻物を勢いよく縦に開く。スクロールっていうんだったか。見たことある絵面だ。使者が王の勅命を読み上げる時のやつじゃないか。
「我が王、私たち強者絶頂原理派の調査により我が王が第7位 ”禁忌のヴァン・リコルウィル”を打ち破ったと認定いたしました」
「どこで聞きつけたんだ、はやすぎるだろ」
「よって我が王を新しい第7位といたしまして”黄金の指鳴らしフィンガーマン”を『七つの英雄』に加えさせていただきます」
「話聞けよ」
ベルモットはホクホク顔でスクロールを巻いて小さくまとめると背後の従者へ渡す。
「いやはや、強者絶頂原理派は倫理感に厳しくてですね。このベルモット・ラジャーフォードをしてひとりで『七つの英雄』の序列を入れ替えることはできませんでしたが、これで安心です。我が王ならば必ずやあの禁忌の魔術師を打ち破れると信じていましたぞ」
そういえばそんな話だった。『七つの英雄』に名を連ねることで、名声を掴み、世界中に散らばっている仲間のもとへフィンガーマンの名前を届けること。それでみんなを再び集結させること。それが俺の最大の目的だ。
「時に我が王、ヴァン・リコルウィルは我が王をどのように苦しめてきましたかな。よろしければインタビューの方を……」
「別に他のと変わらなかった」
それだけ答えて背を向ける。
そう。何も変わらない。ヴァン・リコルウィルも他のも。何も感じなかった。
「なんと……」
返事が思ったより冷たかったからか、ベルモットは言葉を失っていた。
「ニッケさん、とりあえず諸悪の根源はヴァン・リコルウィルということなのでよろしくお願いします」
「え? あ、ああ……もちろん。……にしても、フィンガーマン、お前って本当にすごいんだな、”あの”ヴァン・リコルウィルを倒して『七つの英雄』にまで名を連ねたっていうのに……その、なんで、嬉しそうじゃないんだ?」
「嬉しそうに見えなかったです?」
「あぁ、まあ。強者にとって強さを認められる『七つの英雄』は夢にまで見る憧れの称号だって私は聞いてたけど」
「……。もちろん。嬉しいですよ」
首をかしげるニッケに、俺は笑顔をつくって応じた。
七つの英雄、序列第7位『黄金の指鳴らし』フィンガーマン。
この肩書きがあればきっと世界に散らばった仲間を集めることに役立つはずだ。
潰れた錬金術商会をあとにし、俺は湖岸へと戻った。
今回、ヴォールゲートまで旅をした主目的を忘れてはいけない。
我々の目的は謎の空飛ぶ巨大豆大福なのだ。ミズカドレカで手に入れた学校新聞の記事。学校の生徒たちならばきっとこの記事のことを知っているはずだ。
俺は期待を胸に生徒たちへ聞き込みをはじめた。
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