これは大物になる


 お昼休みにずれ込んでまで仕事をしていた修羅道さんをお誘いして、いっしょにお昼を取ります。

 彼女は鉄板ステーキ300g定食を。

 俺はコーンポタージュを飲みます。ステーキ食べたかった。


「『フィンガースナップ Lv3』……はじめて聞きました! あの不遇な雑魚スキルにそんな段階があったなんて!」


 相変わらず毒吐くのはご愛嬌。


「スキルってどれくらいまでLvアップするものなんですか?」

「それに関してはなんとも言えませんね」

「ダンジョン財団に情報とかないんですか?」

「ありますよ! たくさん! 財団は国際的な機関なので、世界中でダンジョン関連の神秘──モンスター、クリスタル、異常物質アノマリー、そして、それに呼応するように姿を現した探索者たちとスキル、彼らの持つステータスについて研究を進めてます。ですが、それでもスキルの到達点は判明していないんです。最新の研究ではLv10まで存在するとか海外の学術論文で掲載されていましたけど真相は不明です」

「ふーん(それじゃあ、Lv3くらいはわりとふつうなんですね……ちょっと凄いと思ったのになぁ)」

「 あ、でも、安心してください! 『フィンガースナップ』をLv3にしたのはたぶん赤木さんだけですよ!」

 

 褒められてる?

 褒められてるよね!


 ふふ、なんか誇らしい気分だ。

 みんなに雑魚とか、ゴミとか散々言われていた『フィンガースナップ』くんを俺だけがわかってあげられてるっていうのかな。


 ほら、ゲームとかでもみんなに人気の武器とか使いたくないじゃん? ミーハーっていうのかな。大衆人気に乗ってるだけじゃダメっていうのかな? へっへへ、まあ、そういうことよ。え? 逆張りイキリオタク? やかましいわ!


 ──────────────────

  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

 『イミテーション・スープ』


 同僚との昼食で「スープ」だけを頼む 1/1

 

 ★本日のデイリーミッション達成っ!★

 報酬 先人の知恵C(10,000経験値)


 継続日数:11日目 

 コツコツランク:シルバー 倍率2.5倍

 ──────────────────

 

 本日も無事にデイリークリアです。

 先人の知恵Cは流れるように使います。


 修羅道さんと別れて、午後も元気にダンジョンへと潜ります。

 さて、Cランク探索者にはしてもらえるよう頑張るぞ。


 

 ────一方その頃



 修羅道は財団の対策本部のパソコンで、スキルのレベルについて調べていた。

 お昼に聞いた赤木英雄あかぎひでおの話が気になったのである。


 データベースを漁ると、Lv3に到達したスキルを保有している者は、のきなみ高位探索者たちばかりだとわかった。

 最高位探索者たちでもLv5でカンストかと思えるほど、多くの者が、Lv5より上のスキル段階には到達していないようだった。


「赤木英雄……所有スキル……『フィンガースナップ Lv3』っと。あ、やっぱり、人類初ですね。おめでとうございます、赤木さん」


 修羅道はデータベースを更新し、いまだ赤木以外獲得していない『フィンガースナップ Lv3』を『極めて珍しい』の欄に入れておいた。

 

「あ〜修羅道さんまた赤木さんのページ見てる〜」


 同僚に話しかけられ、思わずページを閉じる修羅道。


「違います! 赤木さんが新発見のスキルを獲得したから、それを更新しようと!」

「新発見? へえ〜さすがは指男。そろそろ、財団の怖いエージェントが内偵でもしはじめそうな領域にきましたなぁ〜」


 同僚はそう言って、自分のスマホでデータベースを見て「おお〜これは…………凄いスキルだな……」と、えらく驚愕した声を漏らした。


「指男は大物になる気がするよ」

「ふふん、当然ですよ、赤木さんは凄いですから♪」


 修羅道は誇らしげに鼻を鳴らした。



 ────



 ──赤木英雄の視点



 6階層まで降りて来ました。

 『秘密の地図』を開いて狩場を確認、直行ししますと、おお、さっそくモンスターが、はい、消し炭です。


 光の粒が俺の身体へ染み込んでいく。

 手で灰を払って、クリスタルを拾いあげる。

 バックに入れて、次なる獲物を探して燃やして、HPが減れば『蒼い血』を打って癒す。

 

 サウナルーティンならぬ、狩場ルーティンを繰り返した。


 スマホが鳴る。

 デイリーミッションは午前5時に更新されるらしいので、その時間にタイマーを合わせておいたのだ。


 もう1日を経ったのか。

 あっという間に時間が過ぎるな。


 ──────────────────

  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

  『走れよメロス ver.2.5』


 走る 0/100km


 継続日数:11日目 

 コツコツランク:シルバー 倍率2.5倍

 ──────────────────


 シンプルな地獄きた。

 コツコツランク:シルバーになってから、たまに厳しいのが混ざっている気がする。

 生身の人間では、普通に考えてやばいだろって感じのだ。

 もちろん、ブロンズ時代の楽なやつもあるのだが……もしかして、デイリーって俺の成長によって、ちょっとずつ難しくなっていくのだろうか。

 いずれ、これが標準になったり……。


 俺はささやかな恐怖を感じながら、6階層を走りはじめた。


 まあ、100kmだし、小走りでいいっしょ。


 そう思って1時間くらい小走りで、狩場ルーティンをまわした。


 ひとつわかった事があった。

 走るとめっちゃエンカウント率あがる。

 効率がぐーんっとあがる。

 いや、よくよく考えたら、当たり前なんだけど、今さら気づいたよ。


 この1時間で下手したら20体くらいチワワを火葬してるかもしれない。

 レベルもあがってるし、いいことづくめだ。


 さて、デイリーはどんくらい進んだか。


 ──────────────────

  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

  『走れよメロス ver.2.5』


 走る 0/100km


 継続日数:11日目 

 コツコツランク:シルバー 倍率2.5倍

 ──────────────────


 目を擦る。


 ──────────────────

  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

  『走れよメロス ver.2.5』


 走る 0/100km


 継続日数:11日目 

 コツコツランク:シルバー 倍率2.5倍

 ──────────────────


 見間違いじゃないです。


 あーね(察し)

 やりやがったな、デイリーくん。

 トラップカード、サイレントレギュレーションを発動したな貴様。

 

 エクスカリバーと同じ原理で、デイリーくんの『走る』には、具体的な時速が決められてるらしい。

 小走りをカウントしないとなると、こっちもちょっと本気を出さないといけなくなった。


 だいたい時速25kmで走りだす。

 

 ──────────────────

  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

  『走れよメロス ver.2.5』


 走る 0.1/100km


 継続日数:11日目 

 コツコツランク:シルバー 倍率2.5倍

 ──────────────────


 理解しました。

 すべてを。デイリーくん、つまり君はそういうことをするやつなんだね。


 4時間後

 

 ──────────────────

  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

  『走れよメロス ver.2.5』


 走る 100km/100km


 ★本日のデイリーミッション達成っ!★

 報酬 先人の知恵B(50,000経験値)

    スキル栄養剤C(10,000スキル経験値)


 継続日数:12日目 

 コツコツランク:シルバー 倍率2.5倍

 ──────────────────


 汗だくになり、荒く息をつく。

 身体のスペックは高いが、いかんせん、走るという動作に身体が慣れていないせいで、バッチリ疲労困憊です。

 

 へっへへ、こんだけ苦労したんだ、別に先人の知恵Bに喜んでやったりしねぇぜ、いっひひ、はやくはやく、レベルアップさせてくれよ……


 ピコンピコンピコンッ!


 久しぶりにエナジードリンクも貰えたので、ぶち込んでしまいます。キモチィィ!


「まだ『フィンガースナップ Lv4』にはならないか」


 エナジードリンクの効能である『スキル経験値』という言葉が一体なにを示しているのかは、具体的には不明だ。

 思うにスキルの解放条件の進捗状況を、経験値という別の数字へ変換したものだと、俺は勝手に思っている。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 辛いデイリーだったが、収穫もあった。

 かなりの速度で走りながら狩場を回れたので、以前の倍以上の効率でモンスターを倒し、経験値とクリスタルを回収できたのだ。


 工夫次第で、いかようにも効率をあげられるというわけだな。


 ちなみに探索者たちとすれ違って「なんで走ってんだ指男……。はっ! まさか!?」って顔を何人かにされてたけど、あれはなんだったのだろうか。


「はぁ、はぁ、はぁ、ステータス」


──────────────────

 赤木英雄

 レベル62

 HP 602/1,650

 MP 205/320


 スキル

 『フィンガースナップ Lv3』


 装備品

 『蒼い血』

 『選ばれし者の証』

 『秘密の地図』


──────────────────


 レベルアップは上々です。

 

「さて、引き続き頑張るか……」


 新しい武器、ランニング狩場ルーティンを手に入れた俺は、小走りで6階層をさまよいはじめた。


 その日の夕方。

 俺は地上へ帰還した。


「あっ、赤木さんお帰りなさい! また2日徹夜かと思いましたけど思ったより早かったですね……って、あーもう、またこんなパンパンに詰めて! 本当に仕方のない人ですね!」


 今日も気持ちのいい時間が来た。

 修羅道さんが、俺のバッグからクリスタルをどさーっと箱にだす。


 いつもお世話になっている高性能なスキャニングマシンが、今日も動きだす。


 このマシンに通すと、光を照射して、質量、密度、クリスタルの純度を、スペクトルから解析し、リアルタイムの市場価格と照らし合わせて、最終的な現時点での売値を算出する。──って修羅道さんが言ってた。俺は原理を1mmも理解していないので、画面にズラーっと表示される数字を見て「すげーっ!」と興奮するだけです。


 ─────────────────

 今日の査定

 ─────────────────

 小さなクリスタル 2,093円

 小さなクリスタル 2,215円

 小さなクリスタル 2,109円

 小さなクリスタル 2,440円

 小さなクリスタル 2,110円

 小さなクリスタル 2,101円

 小さなクリスタル 2,601円

 小さなクリスタル 1,986円

 小さなクリスタル 2,101円

 小さなクリスタル 2,007円

 小さなクリスタル 2,242円

 小さなクリスタル 1,536円

 小さなクリスタル 1,972円

 小さなクリスタル 2,106円

 小さなクリスタル 2,175円

 小さなクリスタル 2,110円

 小さなクリスタル 2,101円

 小さなクリスタル 2,601円

 小さなクリスタル 2,334円

 小さなクリスタル 2,096円

 小さなクリスタル 2,609円

 小さなクリスタル 2,000円

 小さなクリスタル 2,101円

 小さなクリスタル 1,109円

 小さなクリスタル 1,941円

 小さなクリスタル 2,187円

 小さなクリスタル 2,101円

 小さなクリスタル 2,093円

 小さなクリスタル 2,215円

 クリスタル 4,869円

 クリスタル 4,963円

 クリスタル 5,200円

 クリスタル 5,193円

 クリスタル 5,471円

 クリスタル 6,120円

 クリスタル 5,005円

 クリスタル 5,369円

 クリスタル 5,078円

 クリスタル 5,107円

 クリスタル 5,963円

 クリスタル 5,100円

 クリスタル 5,177円

 クリスタル 5,639円

 クリスタル 5,712円

 クリスタル 7,296円

 クリスタル 5,001円

 クリスタル 5,963円

 クリスタル 5,209円

 クリスタル 5,396円

 大きなクリスタル 10,960円

 大きなクリスタル 10,440円

 大きなクリスタル 12,096円

 ────────────────

 合計 203,719円


 ダンジョン銀行口座残高 356,069円

 ─────────────────


「わあ! これは凄いです! さすがは修行僧系探索者ですね! ベテランの収穫ですよ!」


 修羅道さんがぴょんぴょん喜ぶと、俺もぴょんぴょんします。本当にかあいい。


 財団職員たちが、チラチラと奥でこちらを見て来ていた。この量持ってくる奴はあんまりいないらしい。


 探索者稼業開始より、13日。

 総獲得金額35万円。

 毎日、潜って、徹夜もザラ。

 そう考えると、ちょっと……って感じだけど、まあ、この事業には可能性があるので、まったく辛くはない。

 というのも、今回、俺はHPやMP的にかなり余裕を持ちながら、そして、体力にも余裕を持って帰ってきた。

 理由は単純。バッグがパンパンだったから。

 入らないんですよ、クリスタルが。

 なので次回は登山用のバッグを背負って挑みたいと思います。


「これでCランク探索者になれますかね」

「ここで赤木さんに残念なお知らせです!」

「はい?」

「Cランク探索者の昇級要項には、探索者歴最低1ヶ月以上が必須です! 」

「……」

「そう落ち込まないでください! 申請だけはしてみます! もしかしたら、特例でCランクへの昇級が認められるかもしれません!」


 修羅道さんがそんな事を言う頃には、あたりには職員やら、探索者やらの野次馬がわらわらと集まって来ていた。


「うわっ、修行僧タイプだ……」

「あれが噂の指男……」

「これは大物になるぞ……」

「今のうちに古参アピしとくか……」


 ちょっと期待されてるのかな?

 なんだか嬉しくなってしまいますね。

 Cランクに上がれることを願いながら帰路につきました。

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