バズれ、指男


 経験値2.5倍。

 どうもシルバー会員です。


 シルバー会員の力を試すために潜ったダンジョン3階層で、またしても異常物質を手に入れました。


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 『選ばれし者の証』

 あなたは世界に認められた。

 大事に持っているとイイコトがあるかも。

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 ブローチの形状の異常物質です。

 財団からもらった探索者ブローチに似てますねぇ。

 艶のある黒と黄金の縁取り、あら綺麗。

 でも、めちゃ古びてて、カビが生えてて、傷だらけなのがネックです。総じてプラマイで言ったら-100点。あら残念。


 まあ、でも、アイテム名カッコいいし、大事にしてるとイイコトあるらしいので、装備します。アンティークとしてみれば悪くないしね。


 徹夜明けで、さらにダンジョンに潜るのは健全な生命体としてやるべきではないと判断したので、ホテルに帰ることにしました。


「お、指男ゆびおとこだ! 徹夜したんだってな! ガッツあるな!」

「見せてくれよ! 『フィンガースナップ』! あはは!」

「本当にガッツある新人だぜ!」


 こんな感じで話しかけられたので、愛想笑いして、うすうす、って感じで通りすぎました。


 ところでなんすか、指男って。クソダセェっすね。それもしかして浸透してきてる? まずい、今のうちに何とかしないと。


 ホテルに帰ってきました。


 汚れた黒ブローチをお湯で洗ってタオルでふきふきして、サイドテーブルへ飾ります。

 さっきより輝いて見える。ダンジョンの地面の上の、岩の隙間にゴミのように落ちてたので、まあ、汚れていて当然ではあるが。


「お前、ゴミみたいな扱いされてたのに、名前だけはかっこいいな」


 デイリー消化(ソシャゲ)をして、暇になったなーと思い、ふと、ダンジョン財団公式アプリを開きます。タイムラインをのぞきます。


 このアプリはSNSのように、探索者たちが自由に情報を共有したり、異常物質の交換を持ちかけたり、イラスト投稿したり、漫画等投稿してる自由な場所だ。実際、探索者じゃない人も使えてしまうため、結構、関係ない投稿も多い。


 ダンジョン関連の投稿としての主は、なんと言ってもマップ共有だろう。


 マップ共有とは、ダンジョンを真っ先に攻略したベテランが、開拓したマップを後続へ共有するシステムだ。

 ここには大きな夢がある。

 というのも『拡散』されたり『いいね!』されて、多くの探索者にとって有益だと判断されると、それに応じてインセンティブが還元されるらしいのだ。


 例えば、ミスターの投稿を見てみると、すでに10階層まで潜ってるらしく、そこまでの階段の位置などをシェアしている。拡散:9,000、いいね!:1万。


 ダンジョンのヒーローとは彼のような人物のことを言うのだろう。


 いいなあ。俺もバズりたいなぁ。


 ──翌日


 1日ゆっくり休んで、朝になりました。

 とりあえず、デイリーミッションを確認する。



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  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

 『イミテーション・スープ』


 同僚との昼食で「スープ」だけを頼む 0/1


 継続日数:5日目 

 コツコツランク:シルバー 倍率2.5倍

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 クセが凄い。

 なにこのデイリー。

 

「まあ、とりあえず、今すぐには出来ないな」


 まず同僚がいないといけない。

 そして、一緒に食事しないといけない。

 昼食でなければならない。

 スープしか食べてはいけない。

 

 待て。落ち着け。難易度高くね。


 コツコツランクはおそらか毎日続けているからシルバー会員になれた。

 ウィンドウに『継続日数』の項目もあったし。

 ここでもし、今日の『イミテーション・スープ』を達成できなかったら、ここまでの努力は水泡に帰するだろう。


 このデイリー、負けられない。


 ダンジョンキャンプへやってきました。

 時刻は朝の8時。流石に昼食には早過ぎる。

 ただ、素晴らしきインテリジェンスを誇る俺は、布石を巻き始める。


「修羅道さん、おはようございます」

「赤木さん、おはようございます! 今日も頑張りましょう! あ、それとも、指男さんのほうがいいですかね!」


 修羅道さんは、にかーっと明るい笑顔を向けてくれる。かあいい。でも、指男はやめて欲しいなぁ(真顔)


 彼女を、ぜひ昼食に誘いたい。

 同僚という枠に収まってるかは謎だが、同僚判定が出ると信じて誘う。というか誰がジャッジしてるのかもわからんが、頼むよ、まじ。同僚同僚。


「赤木さん、なんだか難しい顔してますね、何かあったのなら話聞きますよ?」


 いかん。

 修羅道さんを誘う覚悟が決まらなすぎて、いらぬ誤解を招いてしまった。そんな険しい顔してましたか我。


「そうだ、よかったら、お昼を一緒にどうですか?」

「どぅへ? え?」

「赤木さんほど年齢の近い子ってなかなかダンジョン財団から選出されないんです。だから、赤木さんとはお友達になれたらなって思って」


 修羅道さんは気恥ずかしげに、頬を淡く染めて、チラッと横目にこちらを見てくる。


「な、なーんちゃって、あはは、すみません、おかしな話ですよね、いきなり、まだなんでもないのに、昼食だなんて」

「修羅道さん、ぜひ奢らせてください(キリッ)」


 無事、約束に漕ぎ着けました。

 こんなすぐにイイコトが起こるなんて……。ッ、さては、黒いブローチ、お前の仕業なのか? よしよし、良い子だ、お前は墓まで大事にしてやるぞ。


 昼まで、適当に1階層でぐるぐるしてチワワを蹴散らし、キャンプへ戻って、修羅道さんと一緒に食事処へ向かいます。


 奢らせてくださいと言いましたが、修羅道さんは借りを作るのが嫌いなそうですので、普通にそれぞれ払いました。

 彼女は定食を。俺はオニオンスープを。

 流石は群馬で名を知れた凶暴な部族の酋長の女。仁義に厚く、借りは作らない姿勢にしびれます。


「今日もミスターはバズってますね!」

「僕もバズりたいです」

「指男で投稿すれば、群馬の探索者には1発でヒットすると思いますよ!」


 いや、そんな広がってるんかい。もう阻止失敗してんじゃん。


 修羅道さんはさくさくのヒレカツを口へ運びつつ、俺はデリシャススープをスプーンですくいながら、話題はマップ共有へ移ります。


「赤木さんの実力が確かな事は探索者さんたちからの噂で聞いてますよ。なんでも『フィンガースナップ』を極めたみたいですね! かつてその雑魚スキルを極めようとした物好きはいませんでした!」


 雑魚スキル……やっぱり、修羅道さんって、ちょっと毒が……。毒がね……。


「赤木さんは、まだ深い階層まで潜れないのでミスターみたいな最速攻略情報をシェアするのは難しいかも知れませんね」

「やはり、もっとランクを上げるしかないですかね」

「赤木さんは浅い階層のプロフェッショナルになればいいんですよ! 赤木さんにしかシェアできない情報がきっとあります!」


 修羅道さんはそう言って、ヒレカツをむしゃむしゃ美味しそうに食べた。俺もヒレカツを食べたかったです。まる。


 午後になりました。


 

 ──────────────────

  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

 『イミテーション・スープ』


 同僚との昼食で「スープ」だけを頼む 1/1

 

 ★本日のデイリーミッション達成っ!★

 報酬 先人の知恵C(10,000経験値)


 継続日数:6日目 

 コツコツランク:シルバー 倍率2.5倍

 ──────────────────

 

 無事クリアです。

 個人的には結構ハードだったので、先人の知恵Cを3つくらいくれてもいいと思いますけど、ええ。


 先人の知恵Cをさっさと使います。

 へへ、はやく、はやくレベルアップを……っ、イヒヒ、この瞬間のために生きてるってもんだぜ、へっへへ♪


 『使用しますか? はい いいえ』

 『はい』


 ピコーン!


 本日のデイリーも終わったので、ダンジョンへ潜ります。


 

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 赤木英雄

 レベル37

 HP 620/620

 MP 124/124


 スキル

 『フィンガースナップ Lv2』


 装備品

 『蒼い血』

 『選ばれし者の証』


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 体調も万全ですな。

 こんだけHPあればチワワの丸焼き作り放題よ。へへ。


 ──パチンッ


 チワワを破壊します。

 今日も絶好調です。

 1階層から3階層まで行ったり来たりしながら、たまにドロップするクリスタルを拾っていると、異常物質をまたしても発見してしまいました。


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 『秘密の地図』

 冒険において危険を回避することほど大事なことはない。

 モンスターの頻出地域がわかる。

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 こんなに異常物質で見つかるものなのだろうか。

 それとも、こんな簡単に見つかってるってことは、さして役に立たない低レアってことなのか。

 あとで修羅道さんに聞いてみよう。


「冒険において危険を回避することほど大事なことはない、ね」


 古びた紙の地図だ。

 破ろうと思えば、いつでも破れそうなほどボロボロだが、描かれている地図は実に緻密で、ゴーゴルマップのように指で拡大もできる。便利だなぁ。


 効果としては、モンスターの出現地域、つまり危険エリアを教えてくれているらしい。


 ただ、俺にはこのマップがどうしても″狩場″を教えてくれてるような気がしてならなかった。


 ここで俺はひらめく。


 このダンジョンはクラス3。

 財団が毎年出してる報告書のまとめサイトをみれば、1階層の広さは、だいたい縦横500mの25,000平方メートルとされている。

 マップを見た感じでも、それくらいの広さはありそうだ。


 そんな広さを誇るものだから、なかなか1階層全部殲滅ということは起こらない。

 モンスターに出会って戦うのも運頼りなところが大きい。

 

 というわけで、モンスターとよく遭遇する危険エリア──転じて″狩場″を何点かシェアしてみた。ここはまだ1階層なので、電波は繋がります。

 

「せっかく投稿するなら、探索者ネームとかつけちゃおうかな。うーん、Mr.フィンガー? ザ・フィンガースナップ、フィンガースナップ英雄? それとも英雄HEROとか、いや、そこまで広い業界じゃないし、知り合いにばっか見られるんだよな……恥ずかしいな……」


 小心者なため結局、あんまりはっちゃけられず『指男』にしてしまった。いや、指男を認めたわけじゃないんだけど、これだと修羅道さんがバズるって言ってたからさ……。


 ──後日、知ることになるのだが、指男という単語は響きのキャッチーさと、雑魚スキル『フィンガースナップ』を極めた変態の愛称として爆発的に広がっていた。誰が変態じゃ。


「おっ、3いいね! ついた。嬉しい」


 この日のダンジョン探索を終えて、ホテルに帰って、投稿を確認してみて、俺はほっこり温かい気持ちになるのだった。


 とはいえ、収益化への道のりは長い。


 

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 今日の査定

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 小さなクリスタル 1,109円

 小さなクリスタル 1,941円

 小さなクリスタル 2,187円

 小さなクリスタル 2,101円

 小さなクリスタル 2,093円

 小さなクリスタル 2,215円

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 合計 11,646円


 ダンジョン銀行口座残高 58,445円

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