回復アイテム


 その夜、ホテルに帰った俺はダンジョン銀行のアプリを開いて、8,806円という数字をニヤニヤして見つめていた。

 ダンジョンで稼いだ初めてのお金だ。

 どうしよう。妹にプレゼントでも買ってやろうか。いや、あの愚妹はこう言うに違いない「え? プレゼント? 現金のほうが普通に嬉しいんだけど」お兄ちゃんつらたんです。


 いや、というかその前に、まずは親父に借りた金を返さないとか。

 もろもろで20万円くらい借りてるからな。


 と言うわけで、稼いだ金で何をするかは、とりあえず20万円稼いで、親父の口座に一気にダンッ、と返済してドヤ顔で「お金返すよ」とメッセージを送りつけてから考えようか。

 

 眠りにつき、朝目覚め、俺はデイリーミッションを確認する。


 ──────────────────

  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

 『約束された勝利の指先』


 エクスカリバーと叫びながら指パッチン

        0/1,000


 継続日数:3日目 

 コツコツランク:ブロンズ 倍率1.0倍

 ────────────────


「ん?」


 嘘だろ、被った?

 被るにしても、これを被らせてくんなよ。最悪だよ。罰ゲーム始まったよ。



 ──4時間後


「カリバー! カリバー! カリバー!」


 ──────────────────

  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

 『約束された勝利の指先』


 エクスカリバーと叫びながら指パッチン

        1,000/1,000


 ★本日のデイリーミッション達成っ!★

 報酬 先人の知恵C(10,000経験値)

    1,000経験値


 継続日数:4日目 

 コツコツランク:ブロンズ 倍率1.0倍

 ──────────────────


 罰ゲーム終了です。

 先人の知恵Cもどんどん使っちゃいます。


 ピコンピコン!


 レベルアップの音の数が少なくなって来た。流石にレベルも上がりにくくなって来たという事だろうか。

 

 気のせいかな、昨日より早くカリバーが終わった気がする。慣れか? 羞恥心への慣れなのか?

 

 本日も徒歩とバスで、クラス3ダンジョンへとやってきた。


 朝からニコニコ元気な修羅道さんに見送られて、俺はダンジョン財団の売店で安かった肩掛けバックを購入する。昨日は4つしかクリスタルを回収しなかったので片手で持ってたのだが、収穫が多くなればそうもしていられなくなる。


 ダンジョンに入り、指パッチン2回でモンスターを倒していく。そろそろ、慣れてきたので2階層へ降りることにした。1階層でレベリングとクリスタル集めをするには非効率だ。


 階層をつなぐ階段は、いくつもあるらしいが、今回は先達が見つけて、シェアしてくれたダンジョンマップをアプリで見ながら、下へと降った。

 階段は非常に長く、ひょっとしたら高さにして100m以上下ったかもしれないと思わせるほどであった。階層間はかなり分厚い岩盤で隔たれているようだ。


 2階層のモンスターがどれほど硬いかはわからない。

 恐る恐る進み、チワワを発見する。違った、モンスターね。

 

「カリバー」


 癖になったカリバーの文言とともに指を鳴らす。モンスターがひっくり返る。起きあがり、向かってくる。もう一回鳴らす。さらにもう一回。


 ──結局、8回鳴らしたら倒れてくれた。

 2階層ではHP8消費の『フィンガースナップ Lv2』で足りそうだ。


 ダンジョンを歩きまわり、人間の足跡が少ないほうへ向かってモンスターを倒す。

 2時間くらいが経過した。10回以上戦闘をし、クリスタも6つくらい手に入れた。だが、頭がクラクラしてきた。

 HPを失いすぎたせいだ。


 やはり、HPを消耗するやり方は、継続戦闘能力面での問題を抱えている。


 と、そこへ、またしてもモンスターが現れた。

 HP8消費の指パッチンで消し炭に変える。

 ちなみにHP8の『フィンガースナップ Lv2』というのは、もはや火花などではなく、普通に敵を火だるまにするくらいの火力がある,

 

 ピコン!


 レベルは上がってる。だけど、現実のダンジョンは甘くないのか、レベルアップしたからと言って、HPは全回復してくれない。


「ん? これは?」

 

 異常物質アノマリーを見つけた。

 注射器のようなカタチをしている。

 アイテム表示は『蒼い血』となってる。

 不気味だ。アイテムの詳細を見る。


 ───────────────

 『蒼い血』

 古の魔術師がつかっていた医療器具

 MP10で充填。使用すると体力を100回復する。

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 見た目は不衛生すぎる注射器だ。

 ガラス容器はカビが生えていて、濁っていて、注射針は錆びてるような気もする。 

 明らかに人間に使っていい医療器具などではないが……。


「思ったより痛くない」


 勇気を持って前腕あたりに刺してみた。


 

──────────────────

 赤木英雄

 レベル26

 HP 60/218

 MP 60/70


 スキル

 『フィンガースナップ Lv2』


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 注射器が空の状態で刺せばMPを充填。

 そして、注射器のなかが蒼い液体で満たされてる状態(たぶんMP?)で、もう一度刺すと。


 

──────────────────

 赤木英雄

 レベル26

 HP 160/218

 MP 60/70


 スキル

 『フィンガースナップ Lv2』


──────────────────



 素晴らしい。

 これは使い回し可能な回復アイテムだったのか。


 俺は『蒼い血』を大事にバッグにしまい、モンスターを倒し続けた。

 実質的にMP10につき、俺の体力は100上昇したことになる。

 戦闘継続力の面で数倍のパワーアップを果たした。


 ピコン、ピコン、ピコン、ピコン。


 時計を見やる。もう10時間以上潜っていることに気がついた。

 だけど、全然疲れてない。むしろ、ちょっと体が温まって来た感じすらする。

 3階層の階段を見つける。


 HPもMPも残ってる。まだ行ける。そう思い3階層へと降りることにした。

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