ガッツのある新人探索者


 俺は叫び続けた。

 そして、指を鳴らし続けた。

 壁ドンとかき消す勢いで叫びつづけ、隣人を逆に追い出しても叫んだ。


「カリバー! カリバー! カリバー!」


 カリバーのところにアクセントを置けばオッケー判定らしいとわかったのが500回目を過ぎたあたりからだった。

 レベルアップしてるおかげで、なんとか耐えられたが、素の人体だったら1,000回の指パッチンなんて指とれちゃってるだろう。


 

 ──────────────────

  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

 『約束された勝利の指先』


 エクスカリバーと叫びながら指パッチン

        1,000/1,000


 ★本日のデイリーミッション達成っ!★

 報酬 先人の知恵C(10,000経験値)

    1,000経験値


 継続日数:3日目 

 コツコツランク:ブロンズ 倍率1.0倍

 ─────────────────


 ピコン


 ちいさな経験値の報酬はアイテムではなく、そのまんま俺に還元されるようだ。

 とりあえず、先人の知恵Cとかいう異常物質も使ってしまおう。


 ピコピコンピコン


──────────────────

 赤木英雄

 レベル18

 HP 140/140

 MP 48/48


 スキル

 『フィンガースナップ Lv2』


──────────────────


 うん、順調。


 昨日みたいに地獄のような激重デイリーじゃなかったからまだお昼だ。時間が残ってるので、ダンジョンに顔を出してみようと思う。


 ホテルからはバスと徒歩であわせて2時間の距離だった。


 SNSとダンジョン財団の発信してる情報をもとに、前と同じテントが立ち並ぶ災害地域のような場所にやってきた。


 ダンジョン対策本部のなかへは、武装した警察官たちへ探索者のブローチを見せて通してもらった。


 探索者たちがさまざまな情報を共有する対策本部は、すでに活気に満ちていた。


 ベテラン探索者たちの話し声が聞こえてくる。


「今回のはデカイ。サーチをかけたら、20階まであるとわかったって話だぜ」

「20階か……久しぶりにクラス3のダンジョンが来たな……」


 どうやら、今回のダンジョンは俺が初挑戦したダンジョンとは比較にならないほどデカイ山らしい。


「ん、お前……赤木じゃないか」

「あ、どうも、ミスター」


 白髪の筋骨隆々男。

 ミスターである。

 腰に大きな両手斧を下げてますが、本人がデカすぎて手斧に見えます。実際にこの人は片手で使います。


「探索者を続ける気になったのかな」

「はい。コツコツ、頑張ろうと思って」

「そうか、うん、自分の道を決められるのは自分だけだからな。先達としてお前の選択を尊重するさ」


 コツコツってところにアクセントを置きました。

 ミスターは「そうさ、デイリーミッションをコツコツこなす事が大事なんだ」って答えてくれたんだろう。わかるわかる。大事よね、デイリー消化。


「今回のダンジョンはどんな具合ですか? もうボス部屋攻略隊は組まれましたか?」

「まだまださ。ダンジョン財団は確実性を優先する気質があるからな。まだ、準備段階の準備段階だな」


 ダンジョン攻略にはおもに三つのステージが存在する。


 ステージ1

 ダンジョン財団の捜査


 財団の保有する探索者たちを使って、そのダンジョンの性質を明らかにするためにさまざまな事前調査が行われる。そして、ダンジョンの規模・モンスター・階層などを基準にクラス分けを行い、民間の探索者たちを招き入れる。


 ステージ2

 ダンジョン攻略

 

 実際に攻略を開始し、クリスタルや異常物質を採掘する段階。



 ステージ3

 ボス討伐


 ボス部屋発見後、あらかた資源を回収したのち、ボス部屋攻略隊が組まれ、大きな戦力を投下してボスを撃破する。

 

「ダンジョンクラスが発表されるぞ!」


 探索者の誰かが言った。

 俺はダンジョン財団公式アプリから、今いるダンジョンを検索して、更新されたばかりの最新情報に目を通した。


 クラス3ダンジョン。

 大型のダンジョンとされるクラスだ。

 ちなみに以前俺が入ったのはクラス2である。

 

 探索者たちが荷物をまとめて、武器をさげて、続々とダンジョンへと進んでいく。


「赤木、一緒に行ってやろう」

「よろしくお願いします」


 俺とミスターはともに第一階層へと挑んだ。

 モンスターが現れた。


「赤木、お前武器持ってないが……」

「まあ、見ててくださいよ」


 指を鳴らす。

 HPをATKへ。

 『フィンガースナップ Lv2』の変換レートは1:5、そうだな、とりあえずHPを10くらい使ってみようかな。


 ─パチンッ


 小さな爆発が起こってモンスターが爆炎に飲まれた。

 そのまま、消し炭になり、跡形もなくなる。

 残ったのは光の粒だ。


 ATK0.1で火花だったので、500倍の火力ATK50ならこれくらいになる気はしていた。


「っ、赤木、なんだそれは?」

「指パッチンですよ。どうですか、ちゃんと攻撃できましたよ」

「『フィンガースナップ』にそんな威力があるわけ……ステータスを見せてくれるか?」


 ──────────────────

 赤木英雄

 レベル18

 HP 130/140

 MP 48/48


 スキル

 『フィンガースナップ Lv2』


 ──────────────────


「フィンガースナップ……Lv2だと?! 最弱スキルにそんなものが存在していたのか」


 めっちゃびっくりしてるなミスター。

 てか、サラッと最弱スキルって言いませんでしたか? 気のせいですか? 


「というか、赤木、お前、レベルが……っ、何をしたんだ、何をすればこんな短期間でレベルがあがる?」

「デイリーミッションですよ」

「デイリーミッション? (なにかの隠語か?)」

「デイリー消化、もちろんミスターもしてるんでしょう?」

「デイリー消化……(隠語、だな)。ああもちろんしてる(日課としてオリーブオイルをスプーン一杯飲んでる)」

「毎日、コツコツやってれば人間成長するものですもんね。まあ、俺の場合はちょっとキツメのやつを連日こなしたんでたくさんレベルアップしましたけど」

「なるほど……お前めちゃくちゃ頑張ったな……(他のダンジョンで特訓したということか。相当にガッツのあるやつだ)」


 俺はミスターに『フィンガースナップ Lv2』の詳細を見せてあげた。


「HP交換な分、MPを消費して発動するスキルより、かなり数字自体が高めに設定されてるな」

「今のでHP10です」

「ここは第一階層だ。たぶん、そこまでの威力は必要ないんじゃないか?」


 ミスターのアドバイスを参考に、最低限の消費でモンスターを倒すことを優先して、HP1消費ATK5の指パッチンを武器することにした。


「『フィンガースナップ』をLv2にしたのはお前が世界で初めてだろうな」

「そこまでですかね」


 指を2回鳴らす。

 モンスターがひっくり返った。

 光の粒子となり、俺の身体の中へ。

 感覚的に経験値を獲得していると考えてよさそうだ。


 1階層のモンスターなら指パッチン2回で倒せるんだな。意外と脆い。


「あれ、これは何ですか?」

「それがクリスタルだ。運がいいな。それなりの大きさだ」


 チロールチョコくらいのサイズの光る石。

 透き通っていて綺麗だ。


 聞けば、これで大体数千円の価格はつけてもらえると言う。

 最高です。


 この日は時間がなかったので、この後すこしだけ探索し、チロールチョコを3つばかり手に入れて引き上げることにした。

 ミスターは引率みたいな形で「私は階層1のモンスターを倒しても仕方ないから」と獲物をすべて俺にわけてくれた。

 きっと、ミスターほどのベテランになると、はした経験値や、はしたクリスタルなんて興味がないのだろう。

 まあ、俺はかき集めますけどね。一粒残らず、姑息に、卑しく、かき集めますけどね。ええ。


 ダンジョンから帰り、査定場所にクリスタルを提出しにいく。

 基本的にクリスタルは持ち出し禁止だ。

 すべてダンジョン財団が買い取る。


「あ、修羅道さん」

「誰でしたっけ!」


 修羅道さん俺のこと覚えてねえよ……まあ、毎日毎日たくさんの人相手してたらそうなるだろうけどさぁ……。


「あはは、冗談ですよ、お帰りなさい、赤木さん! 今日もちゃんと生きて帰って来ましたね! えらいえらい!」


 冗談でよかった。

 でも、依然として言葉の端々に毒がこめられている気がするのは気のせいでしょうか。

 

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 今日の査定

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 小さなクリスタル 2,096円

 小さなクリスタル 2,609円

 小さなクリスタル 2,000円

 小さなクリスタル 2,101円

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 合計 8,806円


 ダンジョン銀行口座残高 8,806円

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「数日前とは見違える成果ですね! すごいです、赤木さん!」

「フッ、まあ、これくらいはね」


 修羅道さんいわく、かなりラッキーな日だったとのこと。安定してこれくらいは稼げるようにならないと……いや、俺の夢はその先だ。俺はここで億万長者になる。


 ちなみに、報酬は口座振り込みで、受け取りはダンジョン銀行のみご利用可能です。

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