3話「俺が廃太子?!」王太子視点・ざまぁ回
3
――王太子べナット・ブリッツ・サイド――
「べナットお前を廃太子し、王族の戸籍から名前を抹消し、北の塔に幽閉処分とする」
アリーゼ・バイスとの婚約を破棄した一カ月後、父上に謁見の間に呼び出された。
そして言われたのが、今の言葉だ。
「父上! 俺は父上の長子ですよ! しかも父上には他に子供はいないのですよ! その俺を廃太子にするのですか?! 王族の名簿から名前を削除した上に北の塔に幽閉するなんてあんまりです! お考えなおしください!」
「そのとおり余にはお前しか子供がいない、王妃に十年子が出来ず五人の側妃を
「俺はやっと授かった大切な王子ということでしょう?」
「違う、お前の母親は力のない子爵家の出身だということだ」
「父上、それはどういう意味でしょうか?」
「母親の実家に力がないゆえ、最も力のある貴族のバイス公爵家の長女とお前を婚約させた。全てはお前を王太子にするためにしたことだ。それなのにお前は男爵令嬢と浮気した揚げ句、アリーゼに
「だって、レニがアリーゼにいじめられたって言ったから……まさか全部レニの
あの可愛らしいレニが
「レニ・ミュルべ男爵令嬢との付き合いは何年だ?」
「入学式に迷子になっていたレニを助けたのが縁で付き合い始めたので、約一年です」
「アリーゼ・バイス公爵令嬢との付き合いは何年になる?」
「俺の五歳の誕生日パーティーで出会って、十歳で婚約したので、出会って十一年、婚約して六年です」
「つまりお前は婚約者がいるのにも関わらず出会ったばかりの女と浮気した。付き合いの浅い浮気相手の言葉を
「そんな言い方……しなくても」
そんな言い方されたら傷つくな。
「こたびの一件で、バイス公爵はお前の元を離れ王弟派に
「はっ?」
バイス公爵のやつ、ちょっと娘に
「分かりました謝ればいいんですよね? アリーゼとバイス公爵に頭を下げて、アリーゼに婚約者に戻ってもらいます、気は進みませんがこうなっては仕方ありません」
適当に謝罪してアリーゼを王妃にして、アリーゼには仕事だけさせればいい。それでレニを側室にして、レニといちゃいちゃしながら遊んで暮らそう、我ながら名案だ!
「愚か者! もはや手遅れだ! バイス公爵は王太子派に
「えっ?」
バイス公爵以外の貴族も叔父の派閥についた? バイス公爵は俺(王太子)の派閥に二度と戻って来ない? アリーゼが俺の婚約者になることもない?
「馬鹿面している場合ではないぞ、お前の母親の身分は低く母方の実家はお前の後ろ盾にはならない。唯一の後ろ盾だったバイス公爵はお前を見限り王弟派についた、お前に残されているのは母親譲りのその美貌だけだ」
「ほへっ? 今褒められました?」
自分で言うのもなんだが、俺は母親譲りの赤い髪に赤い目の中性的な容姿の美少年だ。父上は銀髪に紫眼でいかつい顔をしている、俺は父上に全く似ていない。
「褒めていない、いつ王弟派が謀反を起こし王宮に乗り込んで来るか分からない状態だ。謀反が起これば民は動揺し、内政は乱れるだろう。諸外国に付け込まれる隙を与える訳にはいかぬ、お前を廃太子し、除籍した上、塔に幽閉するのが一番良い解決策なのだ」
最初の話に戻ってしまった。
「待ってください父上! 俺を支持する貴族もいます!」
「お前の側近をしていた三人と、お前の浮気相手のミュルべ男爵家と、学園の進級パーティーでお前の後ろで喚いていた下位貴族の子息の事を言っているのか?」
「そうです、あいつらなら俺の盾になってくれます」
「お前の側近は全員実家から勘当されたよ」
「えっ?」
「奴らは勘当されて当然だ、お前の浮気を放置し、お前の愚行を止めなかった。奴らの父親は弟や
「そんな……! 学園で俺を持てはやしていた下位貴族の令息たちは……?」
「王弟派には全ての上位貴族が
「ではレニは……!?」
「レニとかいう娘とミュルべ男爵は、公爵令嬢に
「そんな! レニはもうこの世には……!」
俺は膝から崩れ落ちた。
「全て男爵令嬢のせいとは言わぬ、だが息子を廃太子する原因になった女とその親を、余は父親として許せなかった。とてもではないが生かしておけぬ」
「父上……! そんなに俺を廃太子することに心を痛めているなら、叔父上を討ちましょう! そうすれば……俺は」
「無駄だ、弟とその派閥の貴族の持つ私兵の数は城の近衛兵の数を上回っている、先ほども言ったであろう? 諸外国の動きも気になる時期だと、内乱を起こしてる場合ではないのだ!!」
父上に一喝されてしまった。
「衛兵! べナットを塔に連れていき幽閉せよ! 暴れるなら手荒に扱っても構わん!」
「「承知いたしました!」」
「父上ーー!!」
泣き叫ぶ俺の両脇を衛兵が押さえ、玉座の間から連れ出した。
父上の顔を見るのはそれが最後になった。
「許せ、息子よ……」
父上が俺のいなくなったあと、玉座で涙を流していた事を俺は知らない。
俺は北の塔に幽閉された、いつ叔父上から毒杯が送られてきても不思議じゃない……そんな状態で正気を保つのは至難の業だ、俺は徐々に心を病んでいった。
思い出すのはレニの愛らしい顔だけ。可愛い女の子に恋して、その子の言うことを信じただけなのに……それがそんなに悪いことだったのだろうか? 俺には分からない。
俺は生まれる前から罪を犯していた事を、王になる資格すらないことを知るのは、叔父上から毒杯を賜るときだった。
そのときになってアリーゼに心から侘びたいと思っても、俺にはその資格も機会もなかった。
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