2話「父に修道院行きを命じられました」

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パーティーの翌日、私の冤罪えんざいは晴れました。


王太子の婚約者である私には王家の影がついておりました、私の行動は全て国王陛下が把握していたのです。


私がミュルべ男爵令嬢の教科書やノートを破いたり、男爵令嬢を噴水に突き飛ばしたり、階段から突き落としたりしていないことが影の証言により証明されたのです。


第一ミュルべ男爵令嬢とはクラスが違います、他クラスの令嬢の教科書やノートを破るのは不可能です。


あの日パーティー会場で初めてお会いした方の教科書やノートを破く必要がありません。


王太子殿下は私が放課後ミュルべ男爵令嬢を噴水に突き飛ばしたり、階段から突き落としたりしていたとおっしゃいましたが、私は授業が終わるとすぐ王宮に向かい王太子妃の教育を受けていました。王太子妃の教育が終われば、王太子妃の仕事をこなし、それが終れば王太子殿下が出来なかった(やらなかった)仕事を片付ける、仕事を終えて帰宅するのは9時を過ぎていました。


私には放課後に他クラスの男爵令嬢を呼び出して、階段から突き落としたり、噴水に突き飛ばしたりする時間はないのです。


王太子殿下に婚約を破棄されましたが、ショックは受けておりません。王太子殿下との婚約は王命によるもの、私は王太子殿下に恋愛感情など抱いたことなど一度もないのです。


そもそも貴族の結婚は家同士の結びつきですから、恋愛したいなど考えたこともありません。


また別の方の婚約者になればいいと思っています。王太子殿下に婚約を破棄され傷物にはなりましたが私はバイス公爵家の長女、公爵家と縁を結びたい貴族は、傷物の私でもお嫁にもらってくれるでしょう。


どんな殿方の元にも嫁ぐ準備はできています、私はバイス公爵家の長女として、父や公爵家の役に立つ生き方をする定めなのですから。


父に執務室に呼ばれそこで聞かされた話は衝撃的なものでした。


「アリーゼお前は公爵家の長女として、お茶会に参加して何年になる」


「五歳のときからですから十一年です、お父様」


執務用の椅子に座る父は終始不機嫌な顔をしていました。


父は私と同じ銀色の髪、セルリアンブルー(わずかに緑がかった濃い空色)の瞳をしています。


「つまりお前は五歳からお茶会に参加していたのにもかかわらず、味方になってくれる友を一人も作れなかったということだな?」


「それは……」


「いくらお前が学園での勉強と王太子妃教育で忙しく学園のうわさ話に疎かったとしても、子供の頃に開かれたお茶会で友人を作っていれば、それとなく王太子の動向を教えてくれた者がいたはずだ。だがお前は進級パーティーで王太子に断罪されるまで王太子が浮気していた事にも気づかなかった、お前に王太子の動向を教える者の一人もいなかった」


返す言葉がありませんでした。


「レニ・ミュルべという娘は男爵家の庶子だそうだ、男爵家に引き取られたのが二年前、学年に入ったのが一年前。貴族の世界に入って二年、本格的に貴族と交流を持ってたった一年で、大勢の貴族の令息を籠絡ろうらくし、王太子の側近を味方につけ、王太子の心を射止めた」


進級パーティーでミュルべ男爵令嬢の後ろにいた、王太子殿下の側近、大勢の下位貴族の令息たちの顔を思い浮かべました。


私が5歳からお茶会に参加しても得られなかった彼らの心を、ミュルべ男爵令嬢はたった一年でつかんだのですね。


「お前はお茶会デビューして十一年、王太子の婚約者になって六年、いったい何をしていた?」


「申し訳ありません、お父様」


王太子殿下の婚約者になってから六年、王太子殿下とは何度もお茶会をご一緒したのに、お心を得ることは出来ませんでした。


王太子妃教育や王太子妃と王太子殿下の仕事が忙しかった……と言うのは言い訳にはなりません。


「もういい、お前は社交界には向いていない修道院に行け」


「お父様、私はどこかの貴族の家に嫁ぐのではないのですか?」


王太子殿下に人前で婚約破棄され傷者にされたとはいえ、腐ってもバイス公爵家の長子、政治的な使い道はあるはずです。


「何度も言わせるな、お前は貴族社会での生活には向いていない、よってお前の修道院行きは決定事項だ」


「はい……お父様」


私は政略結婚も出来ないなのですね、父に貴族として戦力外通告されてしまいました。





翌朝少ない荷物をボストンバッグに詰められ修道院行きの馬車に乗せられました。


父は見送りにも来てくださいませんでした。


父は私が王太子殿下に婚約破棄されたことを、相当怒っているようです。




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