第4章 4-⑴

 8月になって、雅恵チャンから、久しぶりに会いたいからと連絡があって、「隣の駅前に人気のケーキ屋さんがオープンしたから、一緒に行こう」と誘われたので、出掛けたんだけど、「カラオケに行こうよ」って


「何人かにも声かけているから、久し振りだし、付き合ってよ」


「ウチはそんなに歌うまくないし、遅くなるって家に言ってきてないから」


「大丈夫だよ、ちょっとだけだし、勉強ばっかりしてないで、ちょとぐらい遊ぼうよ」


 と、強引に連れて行かれてしまった。中に入って歌いだしたら


「上手じゃない。絢チャン」


 何曲か歌っていたら、3人の男の子が部屋に入ってきた。「一緒に歌おうぜ」と言っていたけど、雅恵チャンは承知していたみたい。多分、最初から打ち合わせしていたんだ。


「雅恵チャン、ウチ、先に帰るね」


「いいじゃぁない。ウチも直ぐに帰るから、もう少し付き合ってよ、お願い」


 言われて、私は席を立つことが出来なかった。そのうちに、男の子たちは持ってきていたのか、お酒の缶を飲みだした。雅恵チャンなんかも、盛り上がって、その中の一人と身を寄せ合って、肩を抱かれながら歌ってた。もう一人の男の子が、私の横に座ってきて


「仲良くしようょ、絢チャン」


 と、言い寄ってきた。私は、体中が鳥肌立ったと感じながら、雅恵チャンに救いを求めるように見たけど


「剛君は絢チャンと付き合いたいんだって。ずーと好きだったんだょ、付き合いなさいよ」と笑いながら返してきた。


 嫌に決まっているじゃーない。もう一人の男の子もニャニャしながら、お店に時間延長とお酒を注文していた。私はジーと固まっていたんだけど、脇で何だかんだと話しかけてきている。「助けて、モト君」と思わず、頭ん中で横切った。


 雅恵チャンなんか、みんなの前なのにキスまでし始めていた。その時、部屋にドドドっと入ってきた。数人のお巡りさんだった。


「君達、高校生だろー、酒飲んじゃーいかんだろー」


 結局、警察署まで補導されていった。事情聴かれて、私は直ぐに許されたんだけど、家の人に引き取りに来てもらうように言われた。私、そんなこと言えない。雅恵チャンは、お母さんが来て、さっさと帰っていったらしい。私が困っていると、様子を見ていた補導の婦警さんが


「親御さんに言えないんだったら、学校の先生でも良いんだけど、あなた、聖女学院でしよ。もっと具合悪いしね。真面目そうだしー」


 私、その時、小学校の植田先生のこと言い出してしまっていた。


 先生は直ぐに来てくれた。やさしく、何にも聞かないで、今の学校の様子とか聞いてきた。私の方から、補導されたいきさつを打ち明けたら


「そう、つまづくことだってあるわよ。それよりも、絵の方も頑張っているみたいね。展覧会でちょくちょく見るわよ。あなたの絵。やっぱり、いいわね、先生は好きなのあなたの絵」


 わざと、話をそらして、今回のことなんか大したこと無いよ、と言っているみたいだった。


「水島君とはうまくいっている?」


 ふいに聞かれたので、戸惑ったけど、私は静かに頭を横に振った。


「そうなの、でも、あなた達はまだ若いんだし、絢チャンは昔から、自分を信じて頑張ってきたんだから、よーく考えてゆけば間違いないわよ。先生も応援してますから」

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