災害資料館
仲仁へび(旧:離久)
第1話
「見てください。こちらが災害資料館です。過去に起きた災害と、それを乗り越えてきた人々の工夫が説明されています」
「こちらの資料館では、過去○○県でおきた災害や、一晩で多くの人がなくなった○○の悲劇などについても詳しく説明されています」
「かつての大昔に人々が歩んできた軌跡を、その目で見てみてはどうでしょう」
モニターの中で、レポーターの人が何か喋っている。
でも私達は学校の宿題で大忙しだから、話し半分に聞いていた。
歴史の授業、あと数週間で期限を迎えちゃうな。
レポート、半分もうまってないや。
私は同じ作業にとりかかっている姉に声をかけた。
「お姉ちゃんも私と同じ宿題一年前にやったんでしょ? どんな事かいたの?」
「てきとうに、テレビで言ってる事をうつしただけだよ」
「それじゃ、参考にならないよ!」
お姉ちゃんは自分の宿題で手一杯らしい。
私はふてくされるしかない。
はぁ、とため息をつきながらテーブルに頬杖をつく。
そこでようやくテレビの内容が目にははいった。
「そうだ、こんどお母さんとお父さんにあそこにつれていってもらお」
そうすれば、今やってるレポートもはかどるかもしれない。
遊びに行くいい口実にもなるし。
「えー、遊びに行くの? こっちは塾があるのに、ずるーい」
でも、お姉ちゃんがうるさいから口にはださない。
「遊びじゃないよ。勉強だよ勉強。だって仕方ないじゃん、お姉ちゃんが教えてくれないんだから」
「こっちは自分の宿題でいそがしいんですー」
私達はそれからもあーだこーだ、どうでもいい事を喋っては宿題をこなす手をとめていた。
テレビはいつの間にか、内容がきりかわっていた。
明日の天気、雨かぁ。
傘もっていかないとな。
当日、私はお母さんとお父さんと一緒にその歴史資料館に訪れていた。
くたびれた服とかボロボロになったヘルメットとか、色々なものが展示されている。
モノクロの写真も多くて、全体的に暗い雰囲気だ。
半分遊びのつもりできたから、ちょっとつまらないなって思ってしまった。
でも、宿題を終わらせるためにに来たから、しっかり見学はする。
昔の記録をおさめた映像なんかも見て、いまとは全然違う街並みにびっくり。
不便そうだなとか、どうやって生活してたんだろうな、とか思考があっちこっち言ったりきたりした。
そうそう、模型なんかも眺めた。
災害が起こる前と、後でこれだけ違うんですって、教えるためのもの。
空から見て見ると、なるほど。
結構分かりやすい。
町のどこどこが被害をうけて、どこまでがどれくらいの被害になるのかが一目瞭然。
レポートが書きやすくなった。
出口に向かうと、資料館のスタッフらしき女の人が声をかけてきた。
「この災害資料館はどうでしたか」
お金を払っているのはお母さんやお父さんなんだから、そっちの機嫌をとればいいのに。
子供に話しかけるなんて、子供好きなのかな
なんて、そんな事直接言ったりはしないけど。
そんな事思ってたら、内心を見抜かれてしまったみたい。
「お金儲けのために、この施設を作ったわけじゃないないからだよ」
そうお姉さんが苦笑していった。
ちょっと罰が悪くなる。
私はごまかすように早口で感想を伝えた。
「すごく分かりやすかったです。大昔の人がどれだけ大変な目にあったか、一目瞭然でした」
「それなら良かった」
女の人は手を合わせて喜ぶ。
これで、機嫌なおしてくれるといいな。
さっきの事は、お母さんとお父さんには言わないでほしい。
だって、知られたら他人にそんな失礼な口を聞いちゃいけませんって怒られちゃうし。言ってないのに。
礼儀には厳しいんだよね。
「こんな事が起きるかもって怖くなった?」
私は首をふる。
昔ならともかく、今は町の設備が色々しっかりしてるから。
「こんな事が起きたら悲しくなるかもって思った?」
私は首をふる。
災害に対する備えは学校で教えてもらったし、ちゃんと家にもあるから。
「それなら、良かった。私達が頑張ってきたかいがあるね。ほら、お母さんとお父さんが読んでるよ」
女の人が指をさして、背後を見る。
おくれて展示を見ていた二人がやっとやってくるところだった。
わたしは、お母さんとお父さんにかけよった。
「もう、遅いよ」
二人はあれこれ、言いながら「私が早すぎる」とか「きちんと見てたの?」とか聞いてきた。
ちゃんと見ていたし、聞いてもいた。
言い訳とはいえ、学校の宿題をやるために来たんだから。
そこで、さっきの女の人の事を思い出してふりかえる。
けれど、女の人は他の人の対応でもしてるのかもうそこにはいなかった。
あたりにもいない。
首をかしげつつも、まあいいかと思って、お母さんとお父さんと一緒に出口を通った。
レポートはだいぶうまったから、これなら今日中に仕上げられるはず。
終わったらお姉ちゃんに遊びに言った事、自慢しよう。
ずるいって言われるかもしれないけど、お姉ちゃんが悪いんだから。
大きな災害が起きた。
誰もが大切な人を亡くした。
家族を失って、一人になった者もいた。
友人や知人すらも失って、一人になってしまった者もいた。
もうそこには住めない。生きてはいけないと言い、家族や知り合いがいても離れ離れになる者がいた。遠くへ去りゆく者もいた。
多くの決断があった。
できれば決めたくなどなかっただろう。
けれど、それを決めない事はありえなかった。
なぜなら、決断しなければ生きられなかったから。
非常時ではどんな決断でも、蔑ろにはできない。
自然の驚異の前で、人は驚くほど無力だ。
だから、人は受け入れ、自分達が在り方を変える事しかできない。
いずれは科学が追いついて、克服できるかもしれない。
もしかしたらうんと遠い将来には、災害などおとぎ話の出来事になるかもしれない。
しかし、この今では。
そんな未来からはうんと離れた過去という今では、人々の方が在り方を変えるしかなかった。
人々は願う。
いつか災害と呼ばれる悪夢の中で、涙を流す人が一人でも減るようにと。
災害資料館 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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