24話 リューデンハイムの女子寮の呪い
エドアルドの御遊学一行のうちの見習い竜騎士の四人は、リューデンハイム寮で基本は生活することになっていた。週末や社交の用事がある時は大使館に泊まるが、リューデンハイムでの見習い竜騎士修行が目的の御遊学なので、規則に従って入寮したのだ。
エドアルドはリューデンハイム寮でのユーリとの親密な生活を夢見ていたが、女子寮には怖い寮母がいた。
「女子寮には男子は一歩たりとも足を踏み入れられないのです。気をつけて下さいね」
エドアルドの一行を案内しながら、女子寮に向かう扉に触れてはいけないと警告する。
「その扉に触ると、恐ろしい事が起きるとの伝説がリューデンハイムにはあるのです。見つかれば退学になるのは勿論ですが、見つからなくて他に不面目な不調に見舞われるそうですよ。僕達も入寮した時に先輩からアレコレ吹き込まれましたが、本当かどうか恐ろしくて試す気にはなりませんでしたけどね。ちょっと口に出すのは憚かる下半身のネタが多かったのです」見つからなくても不幸に見舞われる
グレゴリウスの説明でカザリア王国の見習い竜騎士一行は、フォン・フォレストの呪いの話を思い出して身震いした。
「フォン・フォレストの呪いほどではありませんよ。
でも、アソコが腫れたり、痒くなってかきむしるのは御免ですよね。リューデンハイム寮を建てた頃は、まだ魔法がよく使われていたのでしょう。今でも魔法が有効かは知りませんが、扉の横には寮母の部屋がありますから、気づかれたら退学ですよ」
カザリア王国でもパロマ大学で魔法を研究したりしているが、昔と違い魔法使いと呼べる程の魔力を持っている人はいなくなっていた。しかし、治療に魔力を使う医師や、薬草に詳しく占いなどをする魔女と称する人達は存在していたし、呪いで亡くなったとかの眉唾な噂も聞いたことがあったので、君子危うきに近寄らずだと扉を眺めた。
騎竜訓練を終えてリューデンハイム寮に帰った一行は、ぐだぁとしている。
「これから3ヶ月も、竜騎士隊での見習い実習なんですか?」
エドアルドの部屋に集まり、それぞれが愚痴を言い合う。
「御遊学の遊が少なくないですか? 折角の花の都なのに、これでは楽しめませんよ」
ユリアンの愚痴に全員が頷く。
「確か社交の予定も組んである筈だが、これでは楽しむ体力が残ってないな。でも、土曜のユーリ嬢の御披露目の舞踏会は楽しみなんだ。公式の舞踏会では、令嬢方のお相手を沢山しなくてはいけないから、ユーリ嬢と数回踊れれば御の字だからね」
エドアルドの気楽な発言に、へとへとの三人は相槌を打つ元気も残ってない。軽いノックがして、フランツが夕食に誘いに来た。
「騎竜訓練の後で食欲が無いかも知れませんが、食べてみると空腹だと気づきますよ。朝も昼も余り食べてないでしょ」
食欲は感じてなかったが、フランツの誘いに渋々食堂へと降りっていく。トレイを持って列に並んでいたグレゴリウスと合流して、たっぷりの夕食を席に運んだが、食べれそうにないとカザリア王国の一行は考える。
「少しだけでも、お腹に入れた方が良いですよ」
グレゴリウスの忠告に従って少し口に入れると、若い身体がエネルギー源を求める。
「やっぱりユングフラウの料理は美味しいですね。パロマ大学の学食の調理人を、リューデンハイム寮に修行にこさせたいですね」
食べ出すと空腹と美味しさに、全員が完食した。満足そうに食後のお茶を飲みながら、懐かしく感じるパロマ大学の不味いサンドイッチの話題で盛り上がる。
「彼らは?」
さっきから予科生達が数人、こちらをチラリと見ながら仲間内でコソコソ話しているのを、ハロルドは見つけて気になっていた。
「ああ、彼らは予科生ですよ。多分、ユーリに宿題でも教えて貰おうと待っているのでしょう。ユーリは下級生に優しいから、甘えてるのです」
フランツは予科生達に近づいて、何か用かと尋ねると、前に教育的指導を受けて懲りているので浮き足立ったが、一人が勇気を振り絞って質問してきた。
「ユーリ先輩は寮に帰らないのですか? 社交界デビューされたし、リューデンハイム寮を出られるのではないかと噂があって心配してるのです」
フランツは質問してきた予科生に、そんなの答える必要はないと拒否できたが、真っ赤になっている姿に同情した。
「領地からお祖母様が出てこられているから、屋敷に泊まっているのだろう。見習い竜騎士の間は、リューデンハイム寮で過ごすと言っていたよ」
それとユーリに宿題を教えて貰うのは別問題だぞと釘をさして、フランツは席に戻る。
「ユーリが甘やかすから、図に乗ってるな。でも、モガーナ様がユングフラウに滞在中は寮に帰って来ないのかな?」
グレゴリウスの呟きに、エドアルドも同感だった。
「週末は家に泊まる予定ですが、後はどうするのか僕にもわかりませんね」
「良いなぁ~家にユーリが居るだなんて」
本音を口にしたグレゴリウスに、エドアルドも同意する。
「フランツ卿は恵まれてますよね。夏も一緒だったのでしょ?」
二人の皇太子に羨ましがられても、身内のフランツとしては返答のしようがない。
「ユーリが来ると、賑やかなのは確かですがね。祖父の機嫌も良いですし、両親も喜びますよ」
ユーリの親戚としてフランツは苦労もしているのだが、それを言い募るほど子供ではなかった。フランツが口に出さなかったことに、ハロルドや、ジェラルドは気づいた。
「ユーリ嬢の舞踏会には、可愛い令嬢方も招待されてるのでしょうか?」
ユリアンのお気楽な発言を、ハロルドは馬鹿かと咎める。
「男ばかりの舞踏会を開いてどうするのだ。ユリアンの姉上の舞踏会を開いた時、男ばかりだったか?」
ユリアンは別に怒らなくてもと、ぶつぶつ言う。
「御安心下さい、きっとお淑やかで綺麗な令嬢を招待していますよ」
フランツの言葉にハロルド達は目を輝かしたが、グレゴリウスはマウリッツ公爵家と付き合いのある名門貴族の令嬢方が、皇太子妃を目指して舞踏会に来るだろうと察して溜め息をつく。
「そろそろ、部屋でお風呂に入りたいなら、お湯を頼まないといけませんよ。予科生の消灯時間までしかお湯を運んでくれませんからね」
フランツの忠告でそうだったと席を立った一同だが、グレゴリウスはフランツが微妙な話題を切り上げさせたのだと気づいた。令嬢方の話題はともかく、招待される子息達の話題を避けたのだろうと暗い思いに捕らわれる。
「グレゴリウス皇太子殿下? お湯は良いのですか?」
フランツは駆け込みのお湯の運搬に忙しそうな従僕達を見て、予科生の消灯後に下の風呂場でゆっくりと入浴しようと考える。
「下の風呂場に後でいくよ。マウリッツ公爵家では、誰がユーリの花婿候補なんだ?」
あちゃ~、一番して欲しくない質問をされて、フランツは困ってしまう。
「さぁ? 両親はユーリが幸せになるのを願っていますから、あれこれ画策するかもしれません。でも、ユーリが好きになった相手を受け入れるでしょう」
婉曲に貴方次第ですよと、フランツに答をはぐらかされる。
「すまない、詮ない事を言ってしまった」
グレゴリウスは灯りがともっていない暗く沈んだ女子寮を眺めて、ユーリの不在を寂しく感じる。
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