22話 エミリア先生の結婚式
エミリア先生の実家にユーリはお祖母様と向かいながら、薄いピンクのシフォンドレスが子どもっぽく見えないかしらと心配していた。
「薄いブルーのドレスの方が好きだけど、ハンナのブライズメイドで着たから駄目よね。ピンクは苦手だわ、マウリッツの叔母様や、サザーランドの大叔母様は、私にピンクのドレスを着せたがるの」
モガーナもピンクは苦手で、若い頃も着たことが無かったが、ユーリには薄いピンクも良く似合うと思う。
「シャルロット様や、マリアンヌ様は、ロマンチックなドレスがお好みですからね。でも、そのピンクのドレスは良く似合ってますよ。色は甘いピンクですが、スッキリしたデザインですもの。マダム・ルシアンは腕をあげたわね」
薄いピンクのシフォンが、ウエストに向かって何層か重なっているので、花びらが開いたように見えて、ブライズメイドに相応しい華やかなドレスだ。
「どうもピンクを着ると、子どもっぽく見えないかと心配なの。でも、お祖母様が似合っていると仰って下さって嬉しいわ」
モガーナは自分には絶対似合わないピンクのドレスがユーリに良く似合っているのを見ながら、少しマリアンヌの気持ちが理解できた。
『この娘はドレスの着せがいがありますものね。多分、姿勢が良いからだわ。マキシウスに武術のレッスンなんて無粋なことを強要されているけど、役に立つこともあるのね。 普通の令嬢より鍛えられているから、ドレス姿が綺麗に見えるのよ』
モガーナが孫娘が綺麗にドレスを着こなす理由を考えている内に、パターソン家に馬車は着いた。
「ご結婚おめでとうございます。エミリア先生、とても綺麗だわ!」
ウェディングドレスを着たエミリアは、頬を染めて教え子からの祝福を受ける。
「ユーリ様、ブライズメイドを引き受けて下さって嬉しいですわ」
ユーリはエミリア先生には一年足らずしか教えて貰えなかったが、夏休みに武術を見てもらったり、海水浴に一緒に行ったりと、家庭教師というより親戚のお姉さんみたいに優しくしてもらっていた。
「エミリア先生、あっ、結婚されたらターナー夫人と呼ばなくてはいけないのね。でも、今はエミリア先生だわ。子どもの頃から仲良くして貰ってるんですもの、ブライズメイドぐらいして恩返ししないと」
『ターナー夫人』と、言われただけでぽっと頬を染めるエミリアに、幸せそうだわとユーリは嬉しくなる。
「そろそろ集会場に行きましょう」
花嫁を呼びに来たエミリア先生の母親のパターソン夫人は、やっと末娘が結婚してくれるので上機嫌だ。
ユーリはエミリア先生に真紅の薔薇のブーケを渡す。ブライズメイドらしく花嫁さんのベールが床を擦らないように持ち上げて、しずしずと階段を降りていく姿はお淑やかな令嬢に見える。
集会場には花婿のダニエル・ターナーが待っていた。
花婿の両親と、兄。
花嫁の両親と、兄達と、姉達。
二人の雇い主であるモガーナと、孫娘のユーリという極少数の簡単な挙式だったし、披露宴も身内だけのお食事会の豪華版ぐらいだったが、花嫁と花婿が、お互い愛し合っているのが全員に伝わる良い結婚式だった。
「エミリアさん、ダニエルさん、お幸せに。ターナー夫妻なんだわ」
今回の出席者の女性で独身なのはユーリとモガーナだけだったので、花嫁から直接ブーケを受け取ったユーリは、新婚の二人を祝福する。
二人は船便で帰るターナー一家とは別に、明日の朝にハインリッヒにフォン・フォレストにキリエで送ってもらう事になっていた。
新婚の二人は恥ずかしがったが、缶や、古鍋の付いた馬車でホテルへと出発した。ユングフラウの街に不似合いのガラガラという音をあげて遠ざかっていく馬車を見送ると、モガーナとユーリは両家の人達に挨拶をして、フォン・アリスト家の屋敷に引き上げた。
「エミリア先生、いえ、ターナー夫人は、お綺麗だったわね。この真紅の薔薇みたいに、艶やかで稟としてらっしゃったわ。これでブーケを貰うのは2回目だわ。
花嫁のブーケを貰うと次の花嫁になるというけど、竜騎士になるまで結婚するつもりはないのにね、変ね?」
今回の出席者で独身はお祖母様だけだから別にしても、ハンナの結婚式には多くの女の子達がいたのにとユーリは、ジンクスなんてあてにならないわねと考える。
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