19話 エドアルド皇太子の歓迎舞踏会 前
舞踏会で、ユーリは主賓のエドアルドとファーストダンスを見事に踊った。
「まぁ、なんて今夜のユーリは綺麗なんでしょう。困りましたわね、こんなに魅力的だなんて。エドアルド皇太子殿下は、ユーリに夢中だと宣言されているようなものですわ」
テレーズは清楚なドレスなのに凄く魅力的に見えるわと、アルフォンスに愚痴る。
二人のダンスを舞踏会に出席した全員が素晴らしいと感嘆して眺めていたし、グレゴリウスもダンス相手の令嬢には気の毒な話だが気もそぞろだ。
ユーリはニューパロマで何度もエドアルドと踊ったので、リラックスしてダンスを楽しむ。エドアルドは、ユーリのドレスの罠に嵌まってしまった。腕のなかに抱いてダンスしていると、チュール地の下の肌が魅惑的で、背中のレースの隙間からチラリと見える素肌にクラクラしてしまい、折角の久しぶりのダンスなのに茫然自失のまま終わる。
ユーリを後見人の王妃の所にエスコートしていくのが、辛くて仕方のないエドアルドだったが、同盟国の国王が開いて下さった歓迎の舞踏会で無作法な真似は出来ない。
二曲目をグレゴリウスと踊っているユーリから目が離し難く感じながらも、次のお相手の令嬢と礼儀正しくダンスするエドアルドだ。グレゴリウスも、ユーリの今夜のドレスの罠に嵌まった。
「ユーリ、とても綺麗だよ。このままずっと踊っていたいな」
グレゴリウスに身勝手なプロポーズされたユーリは、また夜迷い事を言い出した! と正気に返って欲しいと内心で毒づく。
「グレゴリウス皇太子殿下と踊りたい令嬢方が沢山お待ちですわ。お淑やかで美しい令嬢を見つけられるわ」
自分の気持ちを知ってるくせにと、残酷な言葉に傷つきながらも、ユーリの魅力に捕らえられているグレゴリウスは、曲がもっと長ければ良いのにと願う。
エドアルドの学友達とのダンスは、ユーリにとっては知り合いなので気楽なものだったが、年の順でか最初に踊ったジェラルドは、またもやユーリのドレスは魅力的過ぎるとクラクラしてしまい、馬鹿馬鹿しいジョークを連発してやり過ごす羽目になった。
「気を付けろよ」
ダンス相手を変わる隙に注意を受けたハロルドは、どうにか持ちこたえたが、ジェラルドから注意されていたにも拘わらずユリアンは魅力に捕らえられてしまった。
「とても魅力的ですね。ユーリ嬢はほんの少し目を離しただけで、より魅力的になられるので困ってしまいますよ」
他の令嬢とダンスをしていたエドアルドは、口説くんじゃない! とユリアンに心の中で突っ込む。
「あ~あ、またユーリのドレス姿に悩殺されていますよ。確かに露出度は0ですけど、ああも清楚なのに魅力的だなんて、変ですよね? 被害が拡大しない内に、何か手を打たないと」
フランツは父親に聞かれたら拳骨ものだと、少し離れた場所でユージーンとジークフリートに愚痴る。
「今夜は、フランツに頑張って貰おうかな。私とジークフリート卿は、ユーリのスケジュール調整で疲れたからな」
ユージーンは夕方までかかった外務省での話し合いを思い出す。パーラーから外務省に帰って、モガーナ様にスケジュールは全面却下されたと報告したジークフリートとユージーンは、外務相と外務次官に呆れられた。
「文句がある方は、モガーナ様が直接お話をされるそうですよ。あの鉄仮面のマゼラン卿が、一言も抵抗出来なかったのですから、最強の貴婦人ですね。ジークフリート卿の仰った通り、怖ろしい程の美貌と若さを誇っていらっしゃいますが、御気性も怖ろしいお方です。私ではまだ卵の殻が付いた雛みたいなもので、相手にはなりませんね」
ユージーンの言葉で、マゼラン卿がギャフンと言わされたと溜飲を下げた外務相と外務次官だったが、ユーリが全く社交のお相手をしないというのも困る。
「こちらとしては有り難い援軍ではあるが、このまま全部キャンセルとはいかないだろう。モガーナ様の許可できる範囲を探さねばならないだろうな」
ジークフリートは叔父のハインリッヒの言葉を伝えた。外務省の先輩であるハインリッヒの提案に、外務相と外務次官は従う事にする。鉄仮面を凍り付かせるモガーナとの対決をさけた外務相だ。
フランツは二人の様子に、モガーナに叱られたショックを引きずっているなと感じた。同盟国の皇太子や学友達とのダンスが終わったら、王妃が選ぶ相手とのダンスが始まるが、あのドレスの魅力に気づいておられるだろうかとフランツは心配する。
「王妃様、ユーリは知らない相手とのダンスが苦手なのです。まだ子どもなので、少し潔癖症ぽいところがあるのです。休憩を多めに入れてやって下さいませんか?」
フランツは後見人の王妃にユーリのドレス姿は魅力的過ぎるとは言えなかったので、子どもっぽい潔癖症だと半分真実を口実にして、ダンスを少な目にして貰う。
「そうですわね、ユーリは少しお子様だから、知らない殿方には緊張するのかもしれませんね。舞踏会が始まってから踊り続けてますから、少し休憩をさせましょう。この曲が終わったらマウリッツ公爵夫人の所で、少し休ませてあげて下さい」
目ざとい王妃は元々ラブモードの二人の皇太子以外の、学友達さえもユーリのドレス姿にメロメロなのに気づいていたので、フランツの提案の意味にピンときた。ユリアンとのダンスを終えたユーリは、王妃の許可を貰ったフランツにエスコートされてマリアンヌの元へ案内される。
「まぁ、ユーリ! なんて綺麗なんでしょう!これはモガーナ様が作って下さったドレスね。清楚なドレスなのに、ユーリの若さと魅力が引き立っているわ」
ユーリを隣に座らせると、フランツに飲み物を取ってきてねと頼んだマリアンヌは、スッピンに見えるほどの薄化粧なのに凄く効果的なメイクに気づいて驚く。
「今夜の貴女はとても綺麗だわ。いえ、いつも可愛いけど、メイクが効果的なのよ。誰がお化粧をしたの? 貴女の舞踏会でも同じ侍女にメイクをして貰いましょうね」
クスクスと叔母様の誤解を笑いながら訂正する。
「お祖母様にメイクして頂いたの。薄化粧なのにポイントを押さえたメイク方法だわ。後で教えて頂く約束なの」
「まぁ、モガーナ様がもういらしているの? ご挨拶に行かなくては」
「叔母様、明日は私の家庭教師だったエミリア先生の結婚式なの。明後日ならお暇だと思うわ。お祖母様はシャルロット大叔母様を訪ねると言われてたから、一度聞かれた方が良いかも」
マリアンヌはきっとモガーナは義理の妹の母上に挨拶に行かれた後で、マウリッツ公爵家にもユーリの舞踏会のお礼に来られるつもりだと察した。年上の方に足を運んで頂くのは遠慮を感じたので、サザーランド公爵家の母上に指示を仰ごうと考える。
「ユーリ、とても綺麗だね。姉上にどんどん似てくるなぁ。でも、駆け落ちはしないようにして下さいよ」
フランツからレモネードを受け取り、喉を潤している姪にデレデレの公爵は美しさ故の心配もする。
「まぁ、リュミエール! 変なことを言わないで下さいね。ユーリに駆け落ちだなんてさせないわ。素敵なウエディングドレスを考えているのですもの。ベールにするレースも作らせているのよ」
ユーリはウエディングドレスを選ぶ権利は無さそうだと溜め息をつく。
「母上、ユーリにウエディングドレスを押しつけないで下さいね」
フランツはユーリの溜め息に気づいて、母上の暴走を止める。
「ユーリ、そろそろ休憩も終わりみたいだね。あちらまでエスコートするよ」
王妃の元には美しいユーリとのダンスを申込みが殺到していたので、仕方なく何人かのダンスの相手を決めていた。王妃からの視線を察知したフランツに送り届けられたユーリは、久しぶりにシャルル・フォン・マルセイ大尉と踊る。
「ユーリ嬢、お久しぶりです。とても綺麗になられましたね」
ユーリもシャルル大尉は覚えていたので、あれからイリスが言ったお祖父様の評を教えたりしながら、楽しくダンスする。もちろん自分の色っぽい奥方説は内緒にしていたが、シャルルは尊敬する上司のアリスト卿の親戚の叔父さん説を聞かされて、吹き出してしまう。
「竜騎士隊長のアリスト卿が親戚の叔父さん! ああ、でも言われてみれば、その通りですね」
ダンスをしながら、笑うという難作業を器用にこなしながら、シャルルはやはりユーリは面白いと再認識する。
「ユーリ嬢と踊っているのは誰ですか? とても親密そうだけど」
ちょっと休憩していたエドアルドは、大使に尋ねる。
「ああ、彼はシャルル大尉ですね。マルセイ一族は海軍提督をだす名門ですが、彼は竜騎士だったはずです。ユーリ嬢の祖父のアリスト卿の部下ですね」
マゼラン卿はモガーナショックを引きずっていたが、エドアルドがアルフォンス国王が開いて下さった歓迎の舞踏会で、ユーリのダンス相手に一々嫉妬するのを許すつもりはない。
「皇太子殿下、王妃様が許可されたユーリ嬢のダンス相手に嫉妬などなさらないで下さいね。これ、割り込みなど許しませんよ」
仲良く話したり、笑いながらダンスしているのを見ていたエドアルドが、ダンスフロアに行こうとするのをマゼラン卿は止める。腹立ち紛れにシャンパンを一気飲みしたエドアルドを、次のダンスのお相手とフロアに送り出したマゼラン卿は、今度はジークフリートが休憩中のグレゴリウスを止めているのに気づいて苦笑する。
「皇太子殿下、駄目ですよ、嫉妬などみっともない」
エドアルドと入れ違いに休憩していたグレゴリウスは、ユーリがアンリと仲良く話しながら踊っているのを見て、嫉妬で胸がキリキリと痛んだ。
「でも、毎日アンリ卿は国務省でユーリと会っているんだよ! パーラーの経営の相談にのったり、算盤を教えて貰ったりしてるんだ。それにマウリッツ公爵家では、親戚のロックフォード侯爵家にユーリを嫁がせたいと思っているんだ」
恋するグレゴリウスが、エドアルドよりアンリに嫉妬しているのを、本能的により強いライバルを見極めたのだとジークフリートは察した。エドアルドもグレゴリウスも、ユーリにとっては自分を皇太子妃という重責を背負わせるので、かなり抵抗のある相手なのだ。それにくらべてアンリなら、マウリッツ公爵家の人達とも結婚後も気楽に付き合えるし、国務省の先輩なので仕事も理解しているから、ユーリの希望通りに仕事も続けられる。
「皇太子殿下、相手が強力なライバルなのに、自分を貶めてどうなさるおつもりですか? アンリ卿と楽しくダンスしているのを邪魔して、ユーリ嬢が喜ぶとでも? ダンスの割り込みは無作法な行為ですが、効果的に使えば令嬢の好意を引き寄せられます。ユーリ嬢が退屈なさっていたり、見えすぎたお世辞にウンザリしている時に、割り込みをかけるべきなのですよ」
流石にプレーボーイの名前がついてるだけに、ジークフリートの指導になるほどと感心している間に、アンリとのダンスは終わった。ユーリはその後も、フランツや、ユージーン、ジークフリートや、パーシー卿ともダンスしたが、他の知らない相手とも山ほど踊った。
今夜のユーリのドレス姿に悩殺されたダンス相手が積極的なアプローチをして困らせたり、熱に浮かれたお世辞でウンザリさせられていると、休憩中のグレゴリウスが割り込みを掛けて助けてくれるのをユーリは感謝する。
「ありがとうございます。変なことばかり言われるので困っていたの、助かりましたわ」
ホッとして自分を信頼してくれるユーリに喜んだが、常に休憩中とは限らないと心配するグレゴリウスだ。しかし、ライバルのエドアルドや、アンリも、直ぐにグレゴリウスの意図に気づいて、作戦を真似しだした。
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