10話 竜騎士育成システムの欠点
ユーリは固まってる三人を見つめて、どうすれば良いのか首を捻る。
「カザリア王国では、竜騎士の資質のある子供はどうされるのかしら」
「竜騎士の血筋の子供は、10才の時に資質を調べられるのです」
エドアルドは、その時に友達が素質なしと判定された時の胸の痛みを思い出す。
「彼らは竜騎士の資質があると、エドアルド皇太子殿下が仰れば良いのよ。そうよ、彼らの身内の竜騎士に資質があると教えれば、後はちゃんとしてくれるでしょ」
エドアルドはハロルドの父親のマゼラン卿や、ジェラルドとユリアンの祖父ジュリアーニ卿、シェパード卿に自分ひとりで説明するのは勘弁して欲しかった。
それに、固まったままの学友達を直ぐにどうにかして欲しい。
「ユーリ嬢、マゼラン卿とベリーズ、ジュリアーニ卿とユートス、シェパード卿とナリスを呼び寄せて下さい」
ユーリはマゼラン卿、ジュリアーニ卿とは面識があったが、内務大臣のシェパード卿は顔も知らなかった。
その上、彼らの騎竜とはまだ会ったことがない。
「私は知らない竜は呼び寄せできないわ。でも、イリスはベリーズ、ユートスとは顔見知りだから呼んでくれると思うの、後はナリスだけね。ユリアン様のお祖父様はどなたかとご一緒じゃないかしら? その方の竜にナリスとシェパード卿を一緒に連れて来て貰えると思うけど」
「シェパード卿はジュリアーニ卿と友人ですから、一緒に過ごしているかもしれない。一緒でなくても、屋敷は隣同士だから、ユートスがナリスに伝えてくれるでしょう」
できたら父上の相談役のジュリアーニ卿や、内務大臣のシェパード卿では無く、ジェラルドやユリアンの父親に来て欲しいが、国境線の警備中や、大使として外国に赴任中で、ニューパロマを留守にしている。
「ユーリ嬢、イリスに彼らに至急ここへ来るよう伝えて貰えますか、お願いします」
ユーリはイルバニア王国の竜騎士達からも、このままでは蛇の生殺しですと急かされて、イリスに三人の父上とお祖父様方を至急呼び寄せるように頼む。
『呼んだよ』
どうやら今日は海水浴は無理そうだとガッカリしているイリスを、ユーリは夜は寝るまで目の周りを掻いてあげるわと慰める。
ユージーンはユーリが竜舎で寝てしまったら、またベッドまで運ぶのかと溜め息をついたが、まだ自分が竜騎士になれると信じられずにいる三人を眺めて仕方ないと諦めた。
「エドアルド、何事なんだ! 至急、ここに来いだなんて!」
三人の保護者の竜騎士と竜達だけじゃなく、何故か国王陛下まで竜で来たので全員が驚いた。
「ユーリ、国王陛下もお呼びしたのか?」
ユージーンはユーリに尋ねたが、首を振って否定された。
「父上を呼び寄つけたつもりはなかったのです。マゼラン卿、ジュリアーニ卿、シェパード卿を呼んだのです。ハロルド、ジェラルド、ユリアンは竜騎士の資質があるとイリスとマルスが言っているのです。しかし、本人達はまだ信じられないみたいで、困ってしまって」
王宮でジミー・フォン・クリプトンの一件を話しあっていた国王は、ジュリアーニ卿達が突然に『騎竜に呼ばれたので王家の狩猟場に至急行かなくては!』と席を立つのに驚いた。
もしやジミーの暗殺未遂は当て馬で、他にも暗殺計画があったのではと心配して一緒に来たのだ。
「しかし、彼らは竜騎士の資質がないと判定されたのではないのか?何故、イリスやマルスはそんなことを言い出したのか」
国王も相談役のジュリアーニ卿、エドアルドの教育係と外務を担当しているマゼラン卿、内務大臣のシェパード卿が、自分の子息達が竜騎士の資質を持っていないと知った時の失望と、乗り越えて諦めるまでの苦悩に気づいていた。
軽々しく口にしたように思えて、エドアルドに腹を立てる。
「皇太子殿下、息子のハロルドは竜騎士の資質がないのです。やっと本人も割り切って、勉学に励んでいるのに気持ちを弄ぶような真似はおよし下さい」
教育係のマゼラン卿は、自分の息子のことのみでなく、ジュリアーニ卿やシェパード卿の孫に対する期待と失望を知っていたので、激しく叱りつける。
エドアルドの話を全く聞く気がない態度に、グレゴリウスは苛立ったが、年上の方々なので口を挟み難くて躊躇う。
ユージーン達はイリスとユーリの能力を信頼していたから、竜騎士の資質があるのを確信していた。
『まぁ、その内には理解されるだろうから、口を出さないでおこう』
グレゴリウスの遠慮や、他のメンバーの傍観するのとは違い、ユーリは大人達のマルスの言葉すら信じないのに腹を立てた。
「マゼラン卿、騎竜のベリーズにハロルド様に話かけさせて下さい。他の方々も、ご自分の騎竜にジェラルド様や、ユリアン様に話かけさせて。そうすれば、エドアルド皇太子殿下が間違ってらっしゃらないとわかるわ。ああ、もういいわ! ベリーズ! ユートス! ナリス! サッサと話しかけてみて」
ユーリは自分の言うことを聞かない竜騎士に業を煮やして、直接、竜達に話しかけるように命令する。
『ハロルド! 私の言葉が聞こえるかい?』
『ベリーズ! 聞こえる! 聞こえるよ! でも、私は竜騎士の資質が無いと言われたのに……何故? こんな馬鹿なことが起こったんだ』
ハロルドは自分がどれほど竜騎士になるのを諦めるまで苦しんだかを思い出して、怒りをぶつける。
『ベリーズ、ハロルドはお前の言葉が聞こえてるのか? ハロルドの言葉がきこえているんだな。何故、息子は竜騎士の資質がないと判定されたのだ』
「国王陛下、これは一体どういう事なのでしょう。孫のジェラルドに竜騎士の資質があるとユートスは言ってます。では、10才の時の資質調査は? あれは、なんだったんですか」
カザリア王国の重鎮達がパニックをおこしかけているので、グレゴリウスは少し気の毒に感じる。
国王陛下も事態の深刻さに、顔を引き締めて、エドアルドとユーリに説明を求める。
「イリスがハロルド達は竜騎士の資質を持っているのに、竜が嫌いだからならないのか? と聞いてきたんです。私も最初は信じなかったのですが、マルスも宣言したので、どうしたらよいものかと悩んで、皆様を呼んだのです」
エドアルドは父上は呼んでませんがと内心で呟いた。
「彼らは竜騎士の資質があるのだな? では何故、10才の時に資質がないと判定されたのだろう? ユーリ嬢はイリスから何か聞かれてませんか? いえ、彼らの資質に気づいたイリスに聞いて頂けないでしょうか? 何故、このような事になったのか」
国王からの直々の頼みを断れるはずもなく、ユーリはイリスに『なんで資質がないと判定されたのか、わかる?』と尋ねる。
『10才の時だけ? う~ん、多分、ハロルド、ジェラルド、ユリアンは晩生なんだよ。竜騎士の資質が10才の時にはまだ発達して無かったんじゃないかな? その方法だと、エドアルドみたいな早熟しか竜騎士になれないね』
国王は自国の竜騎士養成システムの重大な欠陥をイリスに指摘されて、眩暈がしそうだった。
しかし、自国の竜より能力が高いイリスに色々と質問したい気持ちが勝つ。
『ハロルド、ジェラルド、ユリアンは、今から竜騎士になれるだろうか? ハロルドとユリアンが17才、ジェラルドは18才だったかな』
イルバニア王国側は後はカザリア王国に任せて退散しようとしていたが、国王はイリスを放してくれそうにない。
『ぎりぎりかな? 見習い竜騎士試験に合格するのは17才ぐらいまでだから。それ以上では、心が固まって竜との交流が上手くできなくなるんだ。でも、彼らは晩生だから、まだ能力は伸びてる最中かもね。ユージーンみたいに超晩生もいるしね。彼はまだまだ成長過程にいるんだ。ユーリは超超早熟なのに、超晩生のユージーンが指導の竜騎士なんだから、面白いよね』
超晩生と言われたユージーンが顔を赤らめるのを、超超早熟と言われたユーリはバツが悪く思った。
『イリス、余計なこと言わないで良いのよ。では、ハロルド様達は竜騎士になれるのね』
『努力次第だね、かなり竜を遠ざけてたみたいだから』
国王は思いがけない展開についていけてない三人を呼び寄せる。
「ハロルド、ユリアン、ジェラルド、君達は竜騎士なる資質があると判定された。予科生から始めることになるし、年齢がぎりぎりだとイリスは言っているが、竜騎士になる為に全力で努力する気持ちはあるか」
「もちろんです!」
三人は瞬時に答えた。
「ユーリ嬢、何か彼らにアドバイスを与えて下さいませんか?」
見習い竜騎士にすぎないからと遠慮するユーリに、三人は真剣にアドバイスを頼む。
「竜騎士としては見習いだけど、竜使いとしては熟練なんだから、何か気づいた点をアドバイスしてあげたら。ハロルド様、ユリアン様、ジェラルド様は、騎士の素養は君より各段に上だけど、竜使いの方は超初心者なんだから」
見かねたフランツの言葉に、ユーリは武術とか騎士の方はぎりぎりでも、竜の扱いは彼らよりは慣れているかもと思う。
「そうですね、竜を愛してあげて下さい。後は、竜舎に泊まり込むぐらい、一緒に過ごしたら良いと思いますわ。ほら、ベリーズ、ユートス、ナリスが貴方達に避けられて寂しかったと言ってるでしょ。彼らに謝って目の周りを掻いてあげて。竜は目の周りを掻いて貰うのが大好きなの」
超初心者の三人が下手べたと竜のご機嫌を取っているのを眺めながら、そろそろ引き上げようとイルバニア王国側は話す。
イリスが飛んできて、ハロルド達の竜騎士騒動が始まってから、他の学友達や令嬢方は微妙な問題だけに狩猟屋敷の方に帰っていた。
国王陛下や重臣達が竜騎士になる為に予科生になることを決定したのだから、部外者は退散した方が良いと思ったのだ。
「国王陛下、私たちはこれで失礼いたします。エドアルド皇太子殿下、竜騎士修行のご学友が増えて良かったですね。ご招待ありがとうございました」
あっさり挨拶して帰ろうとしたイルバニア王国側に、竜達の反撃が待っていた。
『ユーリ嬢、もう帰られるのですか。せっかく会えたのに。それに、マルスに聞いたのですが、海水浴に行かれるのでしょ。私も連れて行って下さい』
国王の騎竜ロレンスは、マルスからユーリに海水浴に連れて行って貰うんだと嬉しそうに言われた時から、ずっと我慢していたのだ。
しかし、ユーリが帰ると聞いて我慢ができなくなった。
『これ、ロレンス! 大人気ないぞ。子どもみたいに海水浴だなんて』
国王はいつもは我が儘を言わないロレンスを慌てて制したが、竜の前で『海水浴』の言葉は禁句だとは知らなかった。
『海水浴に行きたい! ずるい、マルスだけなんて』
『私も海水浴行きたい!』
普段はおとなしいベリーズや、ナリスも海水浴と聞いて騒ぎだす。
『駄目だ! ユーリは私の絆の竜騎士なんだから、私と海水浴に行くんだ』
イリスはまたユーリが他の竜と仲良くすると嫉妬して怒ると、さっき連れて行くと約束して貰ったマルスも黙ってない。
『ユーリは私も連れて行ってくれると言ったよ』
竜達の叫び声に全員が耳をふさぐ。
「ユーリ、どうにかしろ」
ユージーンに怒鳴られても、ユーリは「グレゴリウス皇太子殿下が言い出したのよ」と、責任を転換する。
「私ではこの騒ぎをおさめるのは無理だよ」
エドアルドは父上に責任を押し付ける。
「父上、竜の前で海水浴は禁句ですよ。口に出された責任をとって下さい」
国王は竜達から『海水浴! 海水浴!』と大合唱されて、負けた。
『うるさい! 黙りなさい! 明日は会議を延期して、全員で海水浴だ。これで文句はあるまい』
国王の鶴の一声で、竜達はおとなしくなったが、重臣達はこの年で海水浴ですかと、トホホな気分になる。
しかし、息子や孫が竜騎士になれるという希望で気持ちが大らかになっていたので、まぁたまには竜孝行も良いかと考えて、渋々海水浴に同行することを了承する。
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