第23話 行方不明のバーゲンセール

 資料を受け取り、メリセアン商会を後にした俺達は早速件の森に来ていた。

 ケンジから貰った資料には、居なくなった三人がどうしてこの森に来ていたのかという情報も記載されていたのでそれを元に同じルートを再現して散策をしてみる。

 一人目はケンジの部下の友人である男性。

 運送屋を営んでいるらしく、メリセアン商会とも何度か交流があったようだ。

 取引先に品物を運ぶためにこの森を通ったところ行方不明になった。

 二人目は俺達と同じ冒険者の男性。

 この森を抜けた先にある村から魔物の討伐を依頼され、その後行方不明。

 そして、三人目はその村の住人の女性。

 この森に群生している薬草を取るために来たところ行方不明。

 三人目のルートの再現が終わるころには、俺達は頭を抱えていた。


「……確かに、迷子にはならねぇな」

「そうですね。魔物を討伐したり、薬草を採取するために道から外れることはあるかもしれませんけど、三日や一週間も迷子になるほどじゃないですね」


 そう、確かに森は広いが、道が大きく切り開かれているのでよほど奥まで行かなければ迷子になるほどじゃない。

 ケンジも言っていたが、誘拐の可能性も十分に有り得るようになってしまった。

 もしそうなら情報収集からやり直しになる。

 ただ、それはかなり難しい。

 なんせ現場は広大な森だ。犯人が居たとしても目撃者なんて期待できない。

 GPSや監視カメラなんてない以上、情報を集めようにも集まらないだろう。


「なぁ、人探しの魔法とかないのか?」

「魔力の痕跡を辿る魔法ならあります。でも、三日も前だと辿れる痕跡は残ってないですね……」

「そうか……」


 魔法でも駄目となると、いよいよ万事休すか?

 調査を始めてまだ数時間だが、もう先行きが怪しくなってきた。


「地道にやっていくしかないですね」

「ああ。虱潰しになるけど、もう少し調査してみるか」

「えぇ、折角ケンジさんと交渉したんです。やれるところまでやってみましょう!」

「報酬もかかってるしな」

「あ、そういえば昨日の私の水着についてはっきりしてもらうって言いましたよね?」


 クッソ、余計なこと言っちまった。


「ほらほら、ちゃんとはっきりしてくださいよ」

「仕事が終わったら言ってやる」

「絶対はぐらかす気じゃないですか」

「……仕事と俺の感想、どっちが大事なんだよ」

「もちろん、感想一択です!」

「普通は仕事だろうが!」

「いいえ! これは乙女の沽券に関わることです。恥ずかしい思いしてまで思い切ったのに感想がお世辞だったなんて私のプライドが許しません!」

「安いプライドだな!?」


 そしてあれは世辞じゃねぇよ。

 あの時はちゃんと素直な感想を言ったわ。

 そんな心の声が届く筈もなく、食い気味に俺を見てくるクロ。

 どうやら本当に感想を言うまで解放してくれないらしい。


「あ~あ~似合ってたよ、可愛かったよ! これで良いか!?」


 やけくそ気味に言うと、クロは若干頬を赤らめ、


「えぇ、満足です」


 そう言いながら森の奥へと進んでいった。

 全く、もしかしたら誘拐犯が居るかもしれないっていうのに……。

 仕事に意欲的なのは結構だが、もう少し緊張感をもって欲しい。


「……まぁ、あいつが楽しそうなら別にいいか」


 呟いた独り言は、誰にも届くことなく緑に消えた。

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