第22話 仕事にやる気は不必要
翌日、若干日焼けして痛むうなじを擦りながら俺達はケンジに会いに来ていた。
前と同じように通された部屋のドアを開けると、いつものように「よっ!」とケンジが気さくに挨拶をする。
俺もクロも最低限の挨拶だけを返してケンジと向かい合うようにソファーに腰を落ち着けた。
「それで、昨日は楽しめたかいお二人さん?」
「楽しかったけど、別にお前が期待するようなことは無かったからな」
「えぇ~もっとイチャイチャしろよ。そんでその話を聞かせろよ羨ましい」
「うるせぇ」
「因みに、嬢ちゃんの水着はどうだったんだ?」
「……ノーコメントで」
「え、昨日は似合ってるって言ってたじゃないですか!?」
素直に「似合ってる」とか「可愛い」とかあまり本人の前で言いたくはないので誤魔化すと、クロに迫られた。
いや、昨日の感想は嘘じゃないぞ? ただ、ここで言うのが恥ずかしいだけで。
そんな俺の心の声が届くはずもなく、頬を膨らませたクロに何度も肩を小突かれる。
「む~、む~!」
「落ち着け落ち着け、仕事の話に来たんだろ?」
飛んでくる軽い拳を受け止めながら諭すと、クロは少しだけ唸って拳を引いた。
「……後でハッキリしてもらいますからね」
「はいはい」
乙女心って難しいなぁと思いつつ、俺達のやり取りを見てニヤニヤしているケンジに睨みを利かせ仕事の話に入る。
「これが行方不明になってる三人の資料だ。俺なりに犯人についても調べてみたが、やっぱりこれといって手掛かりは出てこなかったよ。ただやっぱり、あの森の近くに居るとみて間違いないなさそうだぜ」
渡された資料には行方不明になっている三人の経歴が纏められていた。
ざっと目を通してみるが、行方不明の三人に魔力を持っている以外の共通点はなさそうだ。
現場を記してある地図を見ても殆ど一緒だった。
まぁ、後は自分たちで現場を見てみるしかなさそうだな。
「少しいいですか?」
資料に一通り目を通したタイミングでクロが口を開いた。
「なんだ、なにか資料で疑問に思う事でもあったか嬢ちゃん?」
「いえ、資料については何も。後は私たちが直接現場に行かないと分からないことばかりです。それとは別に、先に報酬の話をしておこうと思いまして」
「別にいいけど、先払いなんてしないぜ? 金だけもらってバックレられちゃあ堪ったもんじゃねぇからな」
「そんなことしませんよ。この仕事を受けた時、ケンジさんは報酬に色を付けると言ってましたよね?」
「あぁ、言ったな」
「それで、こちらの要望に一つ答えていただけませんか?」
「頼み事ってことか……。いいぜ、言ってみな嬢ちゃん」
「イールという神について、調べて欲しいんです」
クロの要求にケンジは意外そうな顔をした。
「構わねぇけど、俺は神話や宗教には詳しくないからあんまり期待しないでくれよ。まぁ、その手の専門家を探すところまではやってみるよ」
「よろしくお願いしますね」
資料を片手に少し得意げな顔で俺を見てくるクロ。
……なんだ? 褒めればいいのか?
崇め奉って平伏すれば満足か?
「なんでそんな老人がど忘れした様な顔をしてるんですか」
「まだそこまで年は摂ってねぇよ。お前のテンションについて行けてないだけだ」
「もう! タケルさん自身に大きく関わることなんですから他人事みたいに済ませないでくださいよ!」
「分かった、分かったから」
分かったからペチペチ叩いてくるな。
でもまぁ、イールがどうして俺に不死を与えたのかは気になる。
罰だの野望だの言っていたが、禁忌に触れてまで俺を生き返らせたのには何かしら理由があるはずだ。
クロの言う通り、もう少し仕事に意欲的になったほうが良いのかもしれない。
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