第4話 少女の独白

 灰神タケル。

 そう名乗った彼は言いたいことだけを言って消えてしまいました。

 まるで嵐の様な人だったなと思いつつ、私は彼に掴まれた胸元に手を当てます。

 姿見の前でボタンを外すと、胸元は少し赤くなっていました。

 そこをなぞると、ジンッとした痛みが走ります。

 まさか初対面で押し倒されるとは思いもしませんでした。

 恩を売りつけるつもりはありませんでしたが、それでも心に来るものがあります。

 けれど、彼を責めることはどうしてもできません。

 きっと、なんとなく彼の気持ちが理解できてしまったからでしょう。

 押し倒された時に見えた彼の目は、何か大切なものを失った目をしているように見えたから。

 あの悲しい目を思い出すと、彼を追いかける足は自然と速くなっていました。


 ——おそらくは。

 彼が自分の過去から逃げようとしているその姿が、昔の私と重なったからでしょう。

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