泥と慈愛。splatter game!!
@Mayutsuba
-001 せせらぎ一派の集会
泥酔ガイ。この街に太陽は登らない。止まない雨、晴れない霧、底も果てもない泥、そして人であることを忘れた魕で詰まった街。満たされぬ魕が満たされたヒトを憎み練り歩き、泥をまく。
そんな泥酔街にある巨大で儚く白い城、「不知ノ姫(しらのじょう)」。とてもこの街には似合わない純白を保つこの城は、その儚き肌とは程遠い醜く歪んでおり、見るものを不快にさせる姿を持ち、常に動き、鳴いている。部分的に見れば中世ヨーロッパの城のようにも見えるが、窓のような場所から泥が不定期に吐き出されている。自我のある魕達はその城と付近の城下町に停滞し、「せせらぎ一派」と名乗り根城としている。
その城の最上階、この街の醜さを一望できる特等席で
「腹が減った!」
と言いながら、純白の壁を蹴る魕が居た。壁を蹴る度、城はうねり悲鳴を上げる。人がこの化け物を表現するにあたって後ろ足で立つトカゲ、と言うのが最も近しいかもしれない。その化け物は「腹が減った!」を連呼しながら両手に持つ脈打つ肉を貪る。
「あぁ、うるせぇな!せっかくこっちは気持ちよくさぁけ飲んでんだ静かに出来ねぇのか!?」
今度は床に座り込んで底のない酒で赤い酒を飲んでいた化け物が叫ぶ。刺青を入れたラテン系の男性の容貌をしておりまだヒトに近いが、筋肉痛と骨格が明らかに人間のソレではない。刺青もよく見たら体表に出た血管のようなものであり、常に赤い液体を垂れ流し続けている。
「腹が減って仕方ねぇんだよ!」
「てめぇはいつも肉を食ってんだろうが!?」
「口に入れても食いごたえがねぇ肉じゃ、俺の腹は満たされねぇんだよ!!年がら年中酒飲んでるお前には分からねぇよな!」
「うっせぇな!頭に響くだろ、叫ぶな!こっちだって喉が焼けるだけで、潤う事がねぇんだよ!」
酒瓶で床を叩くと城がまた悲鳴をあげる。今度の悲鳴は夫の虐待に耐える妻の様な不快なもの。
「おい、そこまでにしておけよ。魕同士の殺り合いなんざろくなもんじゃねぇ。アベゲイル、本当にお前は監視されてないと大人しく出来ないのか?絶対に金切り声は抜くんじゃねぇぞ?2000年近く前とは言え、アレを忘れたとは言わせねからな。シクスエ・イトゥもだ。ブチ切れて17回暴れた内の6回は不知ノ姫が壊れてんだぞ?またクソったれ青空生活したいのか?」
壊れかけたぜんまい仕掛けの鳥籠の形をした化け物が2匹を仲裁した。
「クソがよ」
「やってらんねぇな」
そう呟いてまた各々肉を喰い、酒を呑む。
「魕でも喰いたいなぁ。人間なんざより幾らも噛みごたえがある」
「確かに。酒のいいツマミ、いや酒にしたっていいなぁ」
「魕を喰うのはいくらこの泥酔街でも御法度だぞ?理由は分かるよな?」
「あぁ?...はぁ、足りねぇからな!何時だって魕はよ!魕が居ねぇと泥ができねぇ!泥は鬼から出てくるからなぁ!なのに泥吸わなきゃ行けねぇんだよ!?」
「一度泥を吸っちまったら泥の快楽無しでは生きてけねぇ。だが、この泥は俺たちを渇望させる。常に乾いて乾いて仕方ねぇ。まるで海水を呑んでる気分だ。じゃあ、飲まないとどうなる?頭がおかしくなって自我を無くし、ただのゴミになる。つまり死ぬのを忘れた魕だろうと、死ぬ訳だ」
「そうだ。この泥酔街にはいつでも魕が足りない。何故なら出す量と吸う量が合ってないからだ。圧倒的に吸う量が多いんだよ。私たちの体内に入った時点で快楽を生み出す為に消費されるんだ。だから泥の量は次第に減ってく。そしていつかはこの泥酔街ごと魕は消える、そんな定めにある」
シクスエ・イトゥが柱を殴る。啜り泣く声が響く。
「だからこうやって泥啜る以外の方法を探して、憂さ晴らしてんだろが!」
「あぁ、だが確実に泥の量は減ってる。魕増やすにしても、無理やり魕にした人間が出す量なんてたかが知れてる。シクスエ・イトゥの活け造りで斬り付けようが、アベゲイルの禁手豊(きんしゅほう)にぶち込もうが、泥の量なんて足りてないだろ?そんな肉や酒程度の泥じゃ足りねぇ」
2匹の化け物は何時にもまして不機嫌になる。すると鳥籠の化け物はニタリと笑い、とある話を始める。
「私も何時まで経っても、歯車もグリスもネジも何もかも足りない。かと言ってそこらにいる有象無象の人間で埋めるのも限界、お前らと同じだ。だから考えたんだ。魕どもに人間界を襲わせる。そうすれば戦争が怒る。戦争となればいい人間が浮き彫りになる。その上物を私らが喰えばいい」
「確かになぁそりゃいいな、だが俺らも直接暴れちゃダメなのか?」
「当たり前だろ。お前たちが暴れたらあっち側が持たねぇぞ?せっかくの人間が台無しだ」
「はぁ、詰まらんなぁ」
「そこは我慢しろ。まずは雑魚から向かわせて、あちら側に戦う準備をさせる。そしたら段々と強くしていって人間側は弱い奴が死んでってあとは食べ応えがある奴だけ残るって作戦だ」
「まぁ、仕方ねぇな。俺の肉だって、おめぇの酒だって一度作れば延々に楽しめるからな。極上のを用意してもらわないとなぁ」
「じゃあ、始めようぜ」
「はは、もう始めてるよ。魕達に忠告した。人襲わなきゃお前ら喰われる。泥で人を侵せ、ってな」
せせらぎ一派の人界への攻撃が始まる。
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