第二話 志摩討伐と伊賀水軍
永禄6(1563)年11月 伊勢伊勢湊
藤林疾風
六角家の観音寺崩れから三週間が経って、
浅井家の見張組から知らせがあった。
どうやら、美濃へ出陣する様子とのことだ。
当面、領境の警戒は維持するが、伊勢への危険はないようだ。
早朝の港を12隻の新造船と、その倍以上もある新造の大型戦艦3隻が出航して行く。
それを見送ると、俺は才蔵と佐助の二人を従えて、志摩の磯部へ向けて馬を駆った。
先行している
俺は、この陸路討伐隊を二手に分けた。
城戸弥左衛門の隊は、千賀、的屋、浦を。
俺のもう一隊は、国府、甲賀、青山、越賀に攻めることにした。
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〘伊賀水軍 九鬼嘉隆〙
伊勢の港を出ると、大型戦艦1隻に新造船4隻を1組とした、三つの艦隊に別れる。
第一艦隊は俺が率いて志摩の中央の甲賀、国府、浦の各居城に向い、第二艦隊は、釜石左衛門が率いて、遠方の越賀、青山に向う。
第三艦隊は鍋島右京が率いて手前の千賀と的屋の水軍を殲滅するのだ。
風向きは逆風だが、三角帆で風上へ向かう
風に向かい45度の斜線を取り、一定距離で転回を繰り返す。
志摩の漁港では早朝の漁から戻った船に、人だかりが見える。俺の大型戦艦は沖合いに待機し、新造船に接近攻撃を命じた。
新造船には、迫撃砲式の
まず停泊している大きい方の関船から破壊する。命中すると、墳進弾砲一発で関船が真っ二つになる。
小早は投石機の火炎壷で炎上させる。ものの半刻で完了、次の目標に向かう。
次の甲賀の港では、陸路の討伐隊の鉄砲の音が響いていた。女子供が逃げ出そうと浜に出て来たところらしい。俺達が関船を破壊すると、諦めて座り込んでしまっている。
さて、さっさと片付けて、次へ向かうとしよう。
〘陸路討伐隊 城戸 弥左衛門〙
千賀家の居城に到着すると、門番が二人暇そうに話し込んでいる。怠慢の罰だ。
そう呟き、小猿殿へ頷くと鉄砲隊の二人が膝撃ちで二人を葬った。
屈んでいた男の頭と、立っていた男の心臓に一発ずつ、鮮やかな腕前だ。いや銃もいいのか。
閑静な中に銃声が響いたというのに、誰も出て来ない。小猿殿の鉄砲隊が先行して城に侵入した。
城内を進んで行くと、庭掃除の下男がいて大声で『敵襲っ、敵襲っ。』と、叫びながら逃げて行った。
尚も進んで飛び出して来た家臣達に銃口を向け、『我らは伊賀の軍勢、刀を捨てて降伏せよ。刃向かう者の命はないっ。』そう声を上げた。
数名が斬りかかって来たが、銃声の轟音が轟き、周囲の者達を巻き添えにして、一瞬にして葬られた。
轟音と硝煙が止むと『静まれっ、静まれっ。』と言いながら、千賀志摩守が出て来て家臣達に武器を捨てさせ、降伏を申し出た。
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永禄6(1563)年11月 磯部郡代官屋敷
藤林疾風
伊勢志摩の地頭七家の討伐は、その日の内に終わった。
七家全ての城に火を掛け燃やし尽くした。
夕刻に七家全ての者を磯部の代官屋敷前に集め、皆を座らせて処分を言い渡した。
「刀を捨て、農民や漁師として生きるならば伊賀の領民として受け入れよう。
だが、武士として生きたい者は立て。」
多勢の者が立ち上がった。
「伊賀は民の国だ、武士はいらん。今、立ち上がった者は、家族を連れて2日以内に伊賀から立ち去れ。
女衆に言っておく。戦にでればいつ死ぬかわからぬ。子共がおるなら、夫と離縁して、伊賀で暮らしても良い。暮らしが立つようにはしよう。」
「御曹子、我らを伊賀の水軍にお加えくださいっ。お役に立って見せますっ。」
「突然襲撃を行う賊徒の集団などは無用だ。
ましてや、一度臣従しながら破った者など、信用できぬ。」
「 · · · · 、そんなっ。」
「では、伊賀の民として暮らす者とその家族達は、これから伊勢へ参る。ついて参れ。」
伊勢に向かう者達は、夜半に着くことになるだろうが、向こうには炊き出しの飯と寝床を用意してある。
追放とした者達は、居城は焼いたが民家は無事なのだから、なんとかするだろう。
畠山領の地縁を頼るか、織田や畠山に士官して水軍の兵となるか。武士として生きるならば、道はある。
まあ、離縁して伊賀に残した家族を、仕官してから呼び寄せてもいいし、逆に、伊賀に戻り農民漁師になるのも受け入れるけどな。
【 戦国時代の漁村 】
戦国時代の一般的な漁村では、釣り竿での魚釣り、海老籠漁、素潜りの貝採りや小規模な地引き網漁などが行われていたようだ。
干物などは奈良時代からあったが、神社などへの奉納品で、長期保存が目的のため固い干物だった。また、塩を大量に使うため高価になり、庶民には普及してはいなかった。
戦国後期には、各地で綿花栽培が行われるようになり、肥料としての
総じて、漁村は貧しく、このため沖を通る商船から通行料を取って生活を支え、それに伴う武装化の必然もあったのだろう。
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