第4話 伊賀焼きと、忍びの武具造り。

永禄元(1558)年11月 伊賀藤林館 藤林疾風



 母上に待望の第二子が生まれた。俺と年が一回以上も違う涼やかな目もとをした妹だ。 

 名前は綺羅キラと父上が名付けた。

きらめく星のように生きてほしいと、願いを込めたそうだ。


 去年から作っていた石鹸が液状ながらようやく完成し、新たな商品として売り出した。  

 家中では、試用を兼ねいち早く使っていたところだった。

 そのおかげで、産後の母上や調理人使用人達の衛生管理ができてほっとしている。


「母上、おめでとうございます。可愛い妹ができてとても嬉しいです。」


「疾風。この子はあなたが守ってあげてね。きっとお兄ちゃん子よ。『大きくなったら、お兄ちゃんのお嫁さんになる』て言うのじゃないかしら。うふふふっ。」


「母上、変な妄想は止めてください。それより、鳥の蒸し焼きと蜜柑を持って来ました。食べて滋養をつけてください。」


「わかったわ。疾風いつもありがとう。」



 さて、伊賀を護るために俺が準備している武器の一つは火炎瓶と投擲機なのだが、アルコールは焼酎の蒸留で作るとして、割れやすい器は陶器で作りたい。


 前世では伊賀に『伊賀焼き』があったはず。伊賀には良質な粘土があるはずだから、陶工を呼んで探させなくては。

 甲賀の信楽焼の陶工に頼み見つけさせた。上質の粘土が見つかったって。さっそく窯を作り、焼酎の徳利と酒の徳利を作らせた。

 両方とも火炎瓶に化けてもらうつもりだ。


 武士が使う刀は、通常だと刃渡り70cm位にだが、俺は忍者刀として、刃渡り45cmの直刀で刀身には黒錆を施し、さやも漆塗りに砂を混ぜて艶消しをし滑り止めにもした。


 また、刀を踏み台として使えるように鍔を大きくして、鞘と繋いで薙刀としても使えるようにした。

 鞘には5mの丈夫な麻ひもが付けてある。


 手裏剣は苦内クナイという両刃のナイフが主流だが、重量もあり、刃を向けて投擲するのが難しいため、小型で投げやすい十字手裏剣を作った。もちろん黒錆を施した。


 刀と手裏剣にはオモト、クララなどの野草の毒を塗り、浅い傷でも殺傷効果を高めた。


 鎖帷子は重いので、極細の針金で網を作り二重の網に布地を内張りし、長袖のシャツとズボン下も作った。従前の鎖帷子と比べ重量は1/5以下だ。

 兜は麻布を細網で5重に包んで、フルフェイスのヘルメットにした。


 その他には、20mの瘤縄を付けた鈎縄カギナワや手甲鉤、カイザーナックル、竹筒製のハンドガン、発煙筒、大鋸屑おがくずにかわで固めた鉄板底の靴、鉄網で強化した肘宛てと膝宛て。



 これらを鼻歌交じりに作っていたら、見ていた道順が呆れたように、声を掛けてきた。


「坊。もしかして坊は、役小角えんのおづぬ様に師事したことでもあるんですかい?

 こんな武器を、どこから思いつくんで。」


「道順。俺は未来を見てきたからね、過去の忍び道具のいいとこ取りをしているだけさ。

 これは道順が使って。役立つと思うよ。」


「焙烙玉の小型の奴ですかい?」


「うん、手榴弾というんだよ。中に破砕した小石が入っていて飛び散るから、焙烙玉より強力だよ。

 投げて割るだけでいい。まあ持ち運びには注意だね。」


「そうですかい、戦場いくさばで役立ちますな。」


「それより道順、なにか用があるんじゃないの?」


「えぇ、坊が職人達に命じた、コンクリートっやつが、調合割合に目途がついたようで、造れるようになったと知らせがありやした。」


「よしっ、砦の縄張りはできているからな。明日から藤林砦の建設開始だっ。

 道順、明日から賦役の者達を50人ほど、館の方に回してくれるかな。力仕事だから、男衆がいいな。」


「了解でさ。坊、百地砦より立派なのを造ってくだせぇよ。皆、期待してますぜっ」



 藤林砦のある東湯舟郷は、伊賀盆地の北部阿山郡の東北の丘陵にあり、独立丘の頂上部を削平して主郭とし、空堀を隔てて東側に斜面を切り込んだ二の曲輪があり、一段高い所には物見台の小曲輪がある。

 また、南側に三の曲輪があり面積も一番広く、館がある。そして、砦の周囲には切込土塁などで防御されている。


 俺は、三の曲輪の南の平地の畑も囲う高さ3mのコンクリートの防壁を築くつもりだ。

 



【 築 城 】

 しろは古来は、といいともいい、木柵や土塁、石積の塀などで境界としたものを言い今でいうしろは併設の建物や塔を言った。

 西洋では街を城壁で囲った城塞都市があったが日本では普及せず、建物の壁を防御壁とした城が、攻め難い地形や山城が築かれた。

 戦国時代に、鉄砲などの戦法が広まると、石垣や火器が届かない広い堀を備えた。

 

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