長編系ホラーシリーズ〜奇怪な物語〜

花華

成仏する為に 

26世期 日本


カツン、カツンと街に響くその妖艶な靴の音は鳴った。


美しい、妖艶な音を響かせながら。


街を行く人々は男女問わず皆、彼を見る。

その艶かしい漆黒の黒髪と宝石の様に綺麗な赤い瞳、綺麗に造られた顔立ちと身体付き、正装された和服に無意識で惹かれる。


--俺はスバル。15歳。霊媒師だ。俺は生まれ付きに霊感が桁外れに高くて育ちと同時にそういうのを育てる様な所で生きてきて、今は霊媒師をしている。--


今日も、何かしらの理由で成仏しきれていない奴がいないかどうかを見回り中だ。


「はーーーあ、また負けて金が碌にも無えなぁーー....」


コイツは見るからにクソの低級霊。こういう感じのヤツは基本的に無視をしている。関わると面倒臭えから。


「おい!おい!」


何だ?この声は見えない存在からの声か。という事は俺を呼んでいるで間違い無いのだろうが軽率そうな感じの声色だな。返事をする気にもならないな。


「おい!おい!お前!」


..................。


「おーい!!」


目の前に出てきやがった。


「何だ。」


「うわ!!え....?!やっぱお前、俺が見えるのかよ?!」


「自分から呼んでおいて何なんだ?俺を呼んだだろ?用があるならさっさと話せよ」


「やっぱお前、まさかの霊感があるってヤツか....。それなら都合が良いわ!!あのさ、俺、同じく死んだ家族の元に行きたいんだけどいけないんだわ。俺も死んでるのにどうしてかなー。」


「それ、この世界に未練があるからだぞ。何の未練があるんだ?解消しに手伝ってやるよ。」


「助かるわー!その俺の家族は生前に殺されて死んだんだ。その殺したやつが今でものうのうと生きていることを考えるだけで虫唾が走るんだわ。仕返ししてえよ。俺もう死んでるのに」


「なるほどな。」


「仕返し、となるとお前が物理的にソイツにダメージを喰らわす、ということで間違いないだろうがそれをするとお前の魂は天国へは行かない。それだけは理解しろ。」


「天国へいけない.....?という事は、父親や母親にも会えないということか?」


「俺が知るか.....いや待て」


「お前の色に家族辺りで黒色が見える。お前の家族も生前に何か良くない事でもしていそうだな。フッ。」


「俺の親が、はぁ?んな訳.....」


「現にそういうのが見えているんだよ。まあ、その子供である自分には分からないよ。」


「分からないな。俺の親が?分からないね。」


「そうだよ。まあ、それはそれとして、お前はこれから成仏するためにこの世での未練を晴らさなくてはいけない。その為にはソイツに合わなければな。で、結局どうするんだソイツのこと。殺すか?」


「いいや、殺さないわ。」


「お。」


「殺したところで俺の恨みの念はどうにもならない」


「お前、そのクズみたいな外見をしている割には意外と賢いんだな。」


「んなっ、ク....まあ、そうなのかもな。俺は良くないかもな。だけどこれから説得させてやるヤツに対しては全力でやってやるぜ」


「ああ。良い心意気だな。じゃ、ソイツの元へ行くぞ。」


「え?場所もわからないのにどうやって」


「こうだよ。頭貸せ」


「うわっ?!なにす」


その瞬間、俺の視界がシャットアウトした。何も見えなくなったかと思ったら急に親の顔が見えた。苦しんでいる。苦しんでいる....?何故だ?そう思った瞬間、視界がまた戻った。


「おい。終わったぞ。ソイツの居場所が特定できた。すぐに行くぞ」


そう言ったそいつの姿は消えた。いや、肉体が俺達魂だけの存在みたいに改変したっぽい。コイツ、何者だ?


「おい。何ボーッとしてんだボケ。さっさと行くぞ。」


その言い方が基本的に悪いのが気になるが只者じゃないヤツなんだってことがわかっただけでちょー嬉しかった。


「良いか?行くぞ」


彼がそう言った瞬間、俺は高く舞い上がって一瞬で世界が見渡させそうなくらい上がった。と思えば日本を出た。別の大陸に移った。日本じゃ無いようだった。


「そろそろ着くぞ」


そう言われ、地に足を着けた。


「ここはクアラルンプールだ。お前の両親を殺したヤツはこの近辺だぞ。」


「海外?!こんな遠くへ」


「そうだ。逃げ腰の柔軟なヤツだよな」


「海外初めて来たわ。やっぱ街並みも雰囲気も日本とは全然違うなー」


「何を関心しているんだ?早く行くぞ。」


「ヘーイ」


正直、この時点で少し楽しくなっていた。そして暫く歩いたら、彼が止まった。


「ここだ。」


そう言われて見てみたらそこは一軒家みたいな感じだった。


「入るぞ」


入ったらそこにはソイツが居た。周りにはジャンクフードとか即席食のゴミとかが散らばりまくっていて、そんなヤツが俺の両親を殺したのかと考えると余計に腹が立った。そしたらソイツはなんか言った。


「あーーう。なーんか寒気っつうか悪寒がするんだが、何なんだこれ?なんか腹が痛えわあ。」


すると奥から女の人も出てきた。


「えー?アンタ、お腹痛いのー?何か食べたのかい?....って言っても....ねえ....」


女は周りを見渡した。


「こんなに食っていたらそりゃあ、ねえ....。」


「うるせー俺は好きな事を好きなだけして生きていくんだあ。人は刺しゃあ死ぬし、そしたら金が大量に入って来るんだわ。そしたら仕事なんて怠い事もやらなくて済むんだわ。」


「全く、アンタはいつまでもそんなんでいる気かい?困ったダメ男だねえ全く。」


「それはとっくの昔から知ってるだろ?」


「まあねえ!アンタのそういう所も私は嫌いじゃないんだけどね。」


「だろ?知ってるわ。まぁまた金が尽きたらまた殺るわ」


「あら素敵な方法...!」


その瞬間、俺は虫唾が走った。腹に来過ぎて吐きそうになった。隣の彼が


「とんだしょうもない屑共だなこれ。おい春樹、コイツらを俺達のゾーンに引き込むぞ。」


「ゾーン?てかどうやって俺の名前を!」


「さっきお前の頭にあてたあれだよ。あれでお前の名前を知ったんだ。」


彼が懐から数珠を取り出し、何かを祈った。その瞬間、周りの風景が全て霧のように掛かった。


「何だこれ?!」


「え?ちょっと何これ?!」


そして世界の全てが真っ黒になった。そして二人からはどうやら俺達が見え出した様だ。


「誰だお前らは?!」


春樹「お前を説得するために来たわ。」


「お前は彼の両親を殺したな。それは許される事じゃない。唐突で悪いがな、今ここで断罪をさせて貰う。その女はお前の嫁か?」


「俺の女が何だろうと良いだろうがよ。てかお前らは何なんだよ一体?この真っ黒は何なんだよ?」


「貴方達を此方に引き込む為のモノだ。貴方達は彼の両親を殺したんだ。だから彼がお前を説得する為に来たんだ。」


春樹「そうだぞお前。なあ、何で俺の両親が死ななければならなかなったんだ」


「あぁ?そんなもん決まってんだろー。金が欲しかったからさ。これまでにも何度か人を殺って金を取ってきたけどそれが限界になりそうだったんだわ。」


「それだからお前の両親二人をブッ殺して住所も特定をして金を全部取ったんだわー。」


春樹「それに対してお前は何とも思って無かった訳?」


「思う、何を思う必要があるんだ。」


「俺は、それですっげえ残酷な思いをしていたんだわ。急に両親が目の前で刺されて親の血が飛び散って」


「あぁそうか!お前はあの時の子供だったのか。そういえばどうりでどこかで見たことがある顔だなって思っていたわ。あぁ、そうだよ。めっちゃ刺しまくったわー。あれ、顔がどんなだったのかも残骸も残っていないくらいはぶっ潰れてただろ?」


「アンタ、何も反省をしていないんだな」


「あ?反省って何だよ。何を言っているんだ。」


「それで人を傷つけたという事さえも分からないんだな」


「あぁたしかに傷つけまくったね。刃物でスーパーブッ刺しまくったさ。日頃のストレスも兼ねて。ちょー血がでてて楽しかったなー!」


その瞬間、俺は堪忍の尾が切れた。


春樹「なあお前、名前何て言うんだ?」


美形な顔立ちをしたその少年は言った。


「あぁ、そういえば教えていなかったな。悪いな。俺はスバルと言う。宜しくな。」


「そうか、スバル....。俺、復讐なんかもせずにただ説得するだけで終わろうかと思っていたけど無理そうだわ。やっぱコイツら憎い」


春樹「復讐、していいか....?コイツら殺してもいいか....?なあスバル、俺、コイツらが憎いわ。殺してもいいか?やっぱ」


彼は目を下に向けて暫くしてから口を開いた


スバル「....やりたいのか?....本当か?それで後悔は無いか?お前の魂は天国には行かない」


そうだ。その方法では俺は天国へは行かない。だが、それでもいいと思った。


それよりも、親を殺されたこの悔しい感情の方が勝るわ。俺は地獄行きだろうな。あっちで煮られ、刺され、焼かれ、殺され繰り返されるんだろうな。でも構わないさ、俺はもう決めたんだ。俺は、コイツらを、殺す。親がやられたのと同じ事をそのまんまコイツらに返してやる。


スバル「..............そうか。それが、お前の答えか、春樹。」


「あぁ。俺、コイツらを、殺す。」


彼は何も言わなかった。ただ下を向いて何かを考えている様だ。


そして突然、俺の身体から得体の知れない力が湧き上がって来た。その中に俺の怒りも増築された。これでコイツらを殺せる。


そして俺は拳を男の顔面に-----


ブチ込もうとした


急に視界が遮られた


景色が全く違う風景が映った。赤くて熱くて痛々しい様な空気。


親が現れた


父「春樹、お前はここに来るな!!人は殺すな!!」


父さん。懐かしい。会いたかった。死んじゃった時からずっとずっと、会いたかったんだ。


「父さん!!」


「俺も会いたかったぞ春樹!!だがな、お前はこれからあの男を殺そうとしてるだろ、それを辞めろ!!」


「何でだよ?アイツは父さんと母さんをブッ殺したんじゃーん?死んで当然だよ。」


「ソイツらを殺したらお前も地獄行きだ!!」


「いいよ別に。もう決めてるんだ」


「いや駄目だ春樹、目を覚ませ!あのな、実はな、俺と母さんも同じ事をしたから地獄に落ちたんだがここは苦痛でしかない。お前には来て欲しく無いんだ。無理にでも止める。」


「----え?」


その瞬間、俺は思考が停止した。そういえばスバルが確か「両親も同じ様に犯罪をしている」と言ってた気がした


「俺達はな、遊び過ぎで金が少なくなってて金融業者から金を借りていたんだ。それが積もって働くだけでは返せなくなって、その業者を撲殺したんだ。酷いもんだろう?その男と何ら変わり無いさ。」


「えぇ」


俺は絶句した。あんだけ優しくて頭の良い親がまさかそんな感じの人だったなんて


「飯がお前のだけおかしなぐらい少なかった時があったり、俺達がストレスが溜まる度にお前には暴力を奮っていたりしていたのは、全部俺達が悪いんだ。だからせめて、お前にはこっちに来させない。地獄には来るな!!」


「.......マジかよ」


父「ああマジだよ」


呆れてものも言えなかった


自分が愛して止まない、尊敬していた両親がまさかそんな感じのヤツだったなんて、ショックでさっきまで溢れ出ていた止まる訳も無えと思っていた怒りがあまりにもショック過ぎて冷め切っていた。


スバル「これで分かっただろ」


スバル。お前はこの事を言っていたのか?


俺の両親がクソだったって分かっていたのか?てか俺は両親から虐待をされていたのか?


スバル「そういう事だ。だから、そんな奴らの為に復讐なんてするの辞めようぜーー。」


「......あぁ。辞めるわ。何か、気が落ちたわ何か。」


俺は諦めようとした。今まで信じてきた概念が全て無駄な事だったのをこうして死後に理解されてただ自分に呆れる。


スバル「んじゃ、この男と女の二人はどうでもよくなったっぽいよな?」


「あぁ。.....なあ、悪かったな。急に呼び出したりして。」


「ハッ!そういうもんだ。俺が殺すのは殺されるヤツらにもそれなりの理由があるってもんよー!」


父「それじゃあな。俺は先に地獄に帰るぞ。春樹、ごめんな。父さん達が生前にお前に対して酷い事をしてきて。母さんも地獄で刺され焼かれている。」


春樹「あぁ。さようなら。精々、そっちで魂を清めてもらえよ。」


父「........それじゃあスバル君、私を地獄に帰してくれ。」


スバル「ああ。」


え?!スバルの引き金だったのか?そういえばコイツは服装もキッチリ正装された和服であからさまに普通のヤツじゃ無えなって感じはしていたんだ。まさかコイツ俺の事も見えていたけどそっち系のプロか何かか?!


スバル「閻魔大王、聞こえるか?俺の声が。相馬 春吉の魂を地獄に返す。要件が終わった。」


すると何処から聞こえてくるのか分からないけど声が聞こえてきた


「あぁ。じゃあ、今からその者を地獄に返す。相馬 春吉、こちらに来るのだ。」


するとこの空間に紫色の穴みたいなのが出来て人の大きさに広がった。


父「じゃあな、春樹。」


父「お前はそのまま天国へ行くんだぞ!!」


春樹「......なあ父さん。いや、俺ももう死んじまってるけどさ、生前の時は有難うな。」


父「春樹?何を言ってんだよ。俺はお前を散々苦しめたのに有難うだあ?寝ぼけてんのか?お前はそういえばいつ死んだんだよ!」


春樹「いやさ、それでも父さんは父さんだよ。毎日一緒に寝てくれたし、ご飯も食べさせてくれたし、寒い時はあったかいことしてくれたし、俺、すっげえ嬉しかったよ!これから地獄へ戻っていたぶられてもさ、その分の刑期を終えたらまた生まれ変わって楽しんでくれよ!」


父「春樹。春樹。有難う。」


その男の目から水がほろほろと伝っている。


父「そうだよ。金が無くてもな、お前は俺にとって大切な息子だったんだよ!だから遊びにも頻繁に付き合ってやったし、貰い物なら飯も大量に食わせた。大きくなって、いい大人になって欲しかったんだ。」


春樹「分かってるぜ父さん。また....」


春樹「またいつか、どこかの世界で巡り合わせる事ができたらいいな。」


父「ああ!また会おうな!春樹!それじゃあ、父さんは帰るぞ、母さんもいる、地獄へな!」


春樹「じゃあな!また!」


父「あぁ.....あそういえば春樹!一つ聞きそびれる所だったがお前が死んだ理由は何なんだ?享年は?」


春樹「おっと言いそびれる所だったな。俺が死んだのはな.............」


春樹「アンタら二人が子供の頃の俺の身体の中に仕込ませた不発で終わっていた爆弾が爆発したからだよ!!享年は22だ!」


春吉「........そうか。勘づいていたんだな。」


春樹「あぁ。今の話を聞いて理解をしたわ。あの時「これからおっきな病院で強くなれるものを春樹の体の中に入れてもらうよ」って言われて何かの手術をさせられたみたいだった。あれは俺を殺して保険金を手に入れる為だったんだろ?だーれがお前らなんかに愛情なんかあるもんかよ?」


春樹「お前らに有難う?そんな訳ねーーだろ。永遠に地獄で痛めつけられ続けて欲しいね!」


父「....そうか。......チッ...!バレちゃあしょうがねえな。折角、良い親子ごっこをして気分がいいまま、別れようと思ったんだけどなー......」


春樹「そんじゃ、お互いにここで永遠にさよならな。」


父「あーサヨナラだね!お前みたいな汚えガキ、ハナから邪魔なだけだったね!あー畜生、お前もその男を殺っちまえば行く先は同じで面白かったのによー」


春樹「はいはい。さよなら。」


春吉は穴の中へ不気味に笑いながら入って行って、ずっと笑いながら穴の中の遠くの先へ消えて行って、穴は小さくなっていって、閉じられた


するとまた何処からか分からないあの野太い声が聞こえてきた


「相馬 春吉は確かに地獄に戻った。要件はこれで終わりか?ヨイガ スバル。」


スバル「あぁ。これで終わりだ。有難うな、わざわざ地獄のヤツらをこっちまで引っ張って貰って。」


「構わないさ。スバルの言う事だ。私は何でも聞くよ。」


スバル「あーどうもー。でもお前、貴方も身体には気を付けろよ。」


「うっ、あぁああ。何とも無い様にはしているぞ。それではな。またな。」


スバル「それじゃあ春樹。」


「えっ?!」


急にこのちょー力の強い男にそう言われてビビった。何だ?俺も何かされるのか?


スバル「この二人はどうする?」


「あ、あぁそういえばそうだったな。」


そういえばすっかり忘れていたこの二人のこと。男は怯えた様な目でこちらを見ている。

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