証明

船越真

証明

あいつは俺のこと知っているはずはない。あいつと初めて会ったのは、東京駅だった。あいつの方から話しかけてきた。

「すみません。今何時ですか?」

俺はすっかり騙されてしまった。あいつの巧妙な話術に。俺はあいつと出会ったのは初めてだと思っていた。あいつは、俺の全てを奪おうとしているのは考えも付かなかった。俺の全て奪うような男には見えない。どこにでもいそうな男だ。男は、俺の顔を見ると優しそうな眼差しで俺に接していた。俺と男とは、同じ話題で盛り上がり、男の話す冗談は、どこか懐かしいと思わせるようなものだった。俺は、地方から上京して来たばかりだった。男の方は、東京に土地勘があり、年齢も俺よりは年上だ。男は柳田と名乗った。東京駅から話しかけてきて、話す内容も芸人みたいで面白い。柳田は、俺にこう話した。

「いい話があるんだ。もちろん君が判断すればいい。悪い話では無いとおもうが」

「話の内容で判断したい。話を聞くだけならいいけど」

「分かった。では本題に入ろう。これだけは約束してくれ。誰にも話さないと言うことだけは守ってくれ!何簡単なことだ。郵便物を受け取って欲しい」

柳田は、そういって煙草をを一本取り出した。駅の喫煙所に柳田と俺は向かった。俺も喫煙者だ。丁度いいタイミングだった。喫煙所に入ると俺は、煙草に迷わず手を伸ばした。柳田は、俺の事を聞いてきた。俺は柳田ならば何でも話せると信じた。柳田は、俺に共感していた。何でも俺と同じ母子家庭だと言う。俺は、決して貧しくはなかった。だが、柳田は、貧しかったと言う。柳田は、東京に来てもう10年になると話した。柳田は、俺にこう告げた。

「何でも話せるといいな」と。

俺は柳田と別れマンションに向かった。俺のマンションは、賃貸マンションだ。東京に住むと言うことが俺の憧れだった。だが、その時から誰かに見られていると言う先入観が芽生えて仕方なかった。何かが狂っている。柳田と会って俺の周りに何者かがいるような気配がして仕方なかった。柳田は、俺の行動を常に把握していた。柳田は、まるでヘビのような男だ。俺は、その毒をじわじわと俺の血液に流している。俺の行動を常に把握することは何の躊躇もない。柳田と言う男はそう言う男だ。柳田は、俺に刺客を送ってきた。全て柳田の関係者である。さくらという女は、俺に声をかけてきた。

「突然だけどごめんなさい。私こういう者です」

さくらは、一枚の名刺を俺に渡した。名刺には結婚相談と書かれていた。俺は、さくらから名刺を渡されておもった。一瞬何がどうなっているのだろうかと。俺はとりあえず話だけでも聞くことにした。「貴方に会いたいって言う方が三名います。どうしますか?」

俺はそう言われると正直言って嬉しかった。「こんな俺に興味があるなんてどんな人なんだろう。楽しみだ」

さくらに俺は、礼を言うと職場に向かった。そのは、気が付かなかった。

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