真夜中の脱走。
真夜中、ガタガタという音で目が覚める。
子供を寝かしつけたはずの部屋から音がする。
まさか泥棒かと思い、静かに音をたてないようにして部屋のドアを開けた。
するとそこには部屋の小窓からにょきっと生えた子供の下半身があった。
「!?どうした!?」
僕が驚いて声をあげると、子供は一瞬驚いた表情をして振り返り更に激しく抜け出そうともがきだした。
「お、おいおいおい!危ないだろう!無闇に動くな!!」
夢中で子供に駆け寄り体を掴んで床に下ろす。
「一体何だってこんな真夜中に外に出ようとしていたんだ?
ここ1週間過ごして分かっただろうが、僕は魔女だからといって人間を食べたりする魔女ではないぞ。」
子供はここで初めて表情を変えた。
「…だって…、俺面倒なんでしょ…。…要らないんでしょ…。」
小さな口から言葉を紡ぐたびに、その表情が苦しそうに歪んでいく。
目には大粒の涙が溜まって、流れ落ちる。
最初は何のことかわからなかったが、先刻前にした発言を思い出す。
寝かしつけた後だったので、独り言として言ったつもりがどうやら耳に入っていた様だった。
僕は自分の子供への接し方が分からず呟いただけだったのだが、子供にとっては毎日親に言われていた言葉と重なったのだろう。
ぐすぐすと泣いている子供の両肩に手を置き、腰をかがめて目線を合わせる。
「すまない、そんなつもりで言ったんじゃないんだ。
ただ、僕が人間の子供を育てるのが初めてで、どうしたらいいかわからなかっただけなんだ。
お前のことを傷つけてしまったのなら謝る、本当にすまない。」
怖がらせないようにゆっくりと話しかけると、子供はきょとんとした顔をして僕の顔をじっと見つめた。
「…じゃあ、俺、ここにいてもいいの?」
「もちろんだ。
ただ僕は子育ては初心者もいいところだからな。
感じたこと、思ったことはきちんと言葉にしてくれ。
今日みたいに傷ついたことは傷ついたと教えてくれ。
最近100年近くはまともに魔女とも話してないからな。」
そういうと子供はほっとした表情で、僕に近づいてぎゅっとハグをした。
いきなりの感情表現に戸惑いながらぽんぽんと背中を叩いてやると、子供は耳元で恥ずかしそうに
「…ありがとうございます。」
とつぶやいた。
僕がそのまましばらく抱きしめているとすぅすぅと寝息が聞こえてきたので、そっとベッドへ運んだ。
開けっ放しだった窓を閉めつつふと、いい加減「子供」呼ばわりでは駄目だなと思い、明日名前を聞いてみようと静かに心にとめた。
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