巡礼記
祐喜代(スケキヨ)
壱番『巡り廻る』
2014年、僕は四国八十八か所巡礼を
1400キロの道のりを約1か月で歩き通した。
沖縄から九州、西日本の聖地を巡る旅の途中で「ついでにお遍路さんもやってみようかな?」と、軽い気持ちでチャレンジした。
北九州の小倉からフェリーで愛媛の今治に渡り、愛媛にある四十六番札所の「浄瑠璃寺」からスタートした。
お遍路さんについてはほとんど何も知らなかった。
とりあえず浄瑠璃寺の向かいにある旅館の売店に入り、お遍路の旅に必要な道具をお店の人に聞いて揃える事にした。
菅笠と金剛杖。
納札と納経帳と勤行本。
蝋燭と線香。
そしてそれらを入れるためのすだ袋。
最低これくらいあれば十分らしく、白装束や足袋などは買わなかった。
本格的にお遍路さんの装備を一式揃えたら結構な額になるみたいだった。
貧乏バックパッカーの聖地巡礼旅はお遍路後も続くので、ここであまりお金はかけられない。
「このお遍路さんの杖はね、八十八か所全部回り終えると15センチくらい縮むんですよ」
金剛杖はお大師さまの分身。
護持すれば旅の安全を守ってくれる。
金剛杖を受け取った時にお店の人にそんな事を教えてもらった。
想像で杖の長さを比較してみたら、お遍路さんがかなりの長旅になる実感が湧いて来た。
もし旅の途中で命を落としてしまっても、この杖が僕の墓標になる。
「お気をつけて行ってらっしゃい」
Tシャツと短パン、足元はKEENのサンダル。
10キロ以上あるキャスター付きのバックパックを背負い、すだ袋を肩から下げる。
被っていたキャップの上に菅笠を乗せ、杖を地面についてみた。
白装束じゃないと、俄かお遍路さんのような感じがした。
でも「絶対に歩き通す!」と誓って、いざ浄瑠璃時から参拝した。
お遍路さんにはいろんなルールや作法がある。
他のお遍路さんたちはみんな大抵公式ガイドブックを持っていた。
僕はそれを持っていなかったので、お寺の参拝は他のお遍路さんの見様見真似で済ました。
あとはスマホで検索したり、親切な“
基本的に札所のお寺についたら、本堂と太子堂の二か所を参拝するようだった。
それぞれにお賽銭、蝋燭、線香、納札を奉納して、参拝が済んだら社務所に寄って納経帳に御朱印をもらう。
お賽銭を10円にして、納経代が300円。
八十八か所全部のお寺を回ったらこれだけでもかなりの金額になる。
無職の聖地巡礼だから時間はたっぷりあり、体力的にもまぁまぁ自信はあった。
ただ旅の資金には限界があるので、いかに旅費を安く収められるかが勝負だと思った。
お遍路での寝泊りは野宿か、無料で泊めてもらえる善根宿を利用する事が多かった。
市街地であればネットカフェなども利用した。
宿泊代が高くつく民宿やビジネスホテルは、よほどの悪天候か疲労がひどい時以外は、なるべく使わないようにした。
お金に余裕のあるお遍路さんたちよりも多少ハードモードではあるけど、何かと便利な世の中だから、人生を捨てて挑んでいる人や、昔のお遍路さんたちに比べたら超イージーモードなお遍路だろう。
特に強い信仰心があるわけでもなく、ただなんとなくはじめた気ままな旅だ。
それでも不思議と歩いているうちにだんだん信仰心のようなものが芽生えて来て、お経の中にある「十善戒」
不妄語(ふもうご) 嘘をつかない。
不綺語(ふきご) お世辞を言わない。
不悪口(ふあっく) 悪口を使わない。
不両舌(ふりょうぜつ) 二枚舌を使わない。
不慳貪(ふけんどん) 異常な欲を持たない。
不瞋恚(ふしんに) ねたまない。
不邪見(ふじゃけん) 誤った見解を持たない。
不偸盗(ふちゅうとう) 盗みをしない。
不邪淫(ふじゃいん) ふしだらなことをしない。
それらをなるべく守るように努力していた。
そして旅路の中でこれまでの人生を何度も振り返り、これからの人生についてとことん考えたりもした。
雑念、疑問、葛藤、考察、発想、解答、再考察……。
絶えず感情と思考が揺れ動き、突如投げ遣りになったり、開き直ったりして、お釈迦様や弘法大師もこんな感じで諸国を行脚していたんだろうか?と、思ったりもした。
神仏に何かご利益を期待してバスでお遍路をする人。
精神の修養のために自分の足でお遍路をする人。
四国の人の善意に縋って、ホームレスのようにお遍路する人。
様々なお遍路さんがいる中で、僕は一体何のためにお遍路をしているんだろう?と度々迷った。
何か目に見えない存在に導かれてやっているような気もした。
いくら迷っても答えは出ず、答えても迷いは消えず。
八十八か所のお寺を全て回りきって結願する事が出来たら、自ずと答えが出るんだろうか?
結願した人はみんな感動して涙を流すらしい。
僕もそうなるだろうか?
とにかく歩いてみない事には何もわからない。
先はまだまだ長い。
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