第二章 商人を救う

悪魔

「うへへ、早速目の前にある実を逃したらしいな」

「おかしいな、悪魔が目の前にいるなんて。野宿なんてするから寝つきが悪くて変な夢見てるのかな?」


 気が付くと、目の前に例の悪魔がいた。しきりに気味の悪い声を上げて笑っている。正直今は悪魔に会いたくはなかったので、私はさっさと会話を打ち切ろうとする。


「いやもう見ていて最高だったよ。しかもなんか仲間まで出来てるし。どうせすぐ元の世界に戻るのにこの世界で友達ごっことはね。それとももう帰るのは諦めたのかい?」


 悪魔は先ほどの私の行動にご満悦だったのか、しきりに嬉しそうに笑う。うざいことこの上ないが、私を異世界に転生させるような存在に何を言っても仕方ない。


「うるさいなあ。それで何か用?」

「次の実の手がかりを教えようと思ってね」

「本当に!?」


 そう言えば一つ目の実を逃した以上、次の実を探さなければならない。私は急に悪魔の言うことをちゃんと聞こうと思った。


「急に反応変えちゃって。でも、どうせまた逃すんじゃないの?」


 悪魔はそんな私の反応を見てしきりに煽ってくる。


「そんなことないって。今回はたまたまだから」


 そう、たまたまだ、と思い込む一方で頭には嫌な予感が漂う。

 なんたって相手は悪魔。しかも実を探すのは本題ではないとも言っていた。つまり、私が実を見つけた後にどうするか悩むのかを見て楽しむのが本題なのではないか。私はたまたま病気の母を持つ少女と出会ったのではなく、悪魔に仕組まれて出会ったのではないか。


 だとしたら次も何か私の入手を妨害するような仕掛けがあるに違いない。その時私は本当に実を手に入れることが出来るのだろうか。

 そんな私の自信の無さを見透かしたように悪魔は気持ち悪い笑みを浮かべる。


「ふーん? ま、君が実を手に入れようと入れまいとどっちにしろ見ていておもしろことには変わらないからいいけどね。せいぜい悩んでくれたまえ」

「うるさいな。さっさと場所だけ教えて」

「つれないねぇ。村を出て街道沿いに東へ向かって行けばそのうち次の実と出会うだろう。ちなみにこの世界の人は悪魔とか知らないから。お仲間の子に悪魔のこととか聞くと変に思われるよ」

「余計なお世話だ!」


 こうして、私は嫌な気持ちとともに目を覚ましたのだった。情報は分かったけど最悪の寝覚めだ。

 でも、悪魔の話を聞いている限りシルアが仲間になったのは悪魔の差し金ではないらしい。それだけは少し気が休まりそうだ。


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