間章 悪魔
「いやあ、異世界一日目はどうだったかい? 楽しんでくれたかな?」
夢を見ているのだろうか。私の前を例の悪魔がふよふよと浮いている。周囲は例によって真っ暗の空間だ。
私の苦労をよそにヘラヘラとしている態度に少しイラっとしたけど聞きたいことは色々あるので出てきてくれてありがたいと言えばありがたい。
「うーん、日本とは全然違ってびっくりだった。ていうか魔物って何?」
「まあ大体ゲームに出てくる敵と同じようなものだと思ってくれたらいいよ」
「ちょっと、そういうのは事前に言っておいてもらわないと、恥かきそうになるんだけど」
私は懸命に抗議するが、そんな私を見て悪魔はおかしそうに笑う。
「ははは、必死に記憶喪失で誤魔化そうとする様はおもしろかったよ。なかなか初々しくていいねぇ」
悪魔の様子を見る限り、下手に抗議するのは逆効果になるようだ。
「そうなんだ……他にも色々聞きたいことあるんだけど」
「違う違う、君の疑問に答えに来た訳ではないんだ。ちょっと重要なことを忘れてて」
悪魔は何がそんなに楽しいのか、ことさらに私を煽るような言い方をする。
私は懸命に苛々を抑えながら会話を続ける。
「重要なことって何?」
「生命の実を探せとは言ったけど、手がかりを何も与えてなかったなと思って」
「そんなのもらえるの? それなら早く欲しいんだけど!」
私はがばっと身を乗り出す。何も手がかりがないものだからとりあえず生きる手段を見つけてからのんびり探そうかと思ってしまっていたところだった。そんな私の気持ちが伝わったのか、悪魔も気持ち申し訳なさそうにする。
「ごめんごめん、おわびに一つ目は直接場所を教えてあげよう」
「え、そういうものなの?」
てっきりこれは私が実を探す試練なのかと思っていた。
「要は別に実を探す過程にそんなに意味はないってことさ」
では何に意味があるのだろうか。私は疑問に思ったが、私が口を開く前に悪魔の言葉が続く。
「一つ目はこの村のお社にある」
「そんな近くに!?」
とは言うもののそういうところのご神体とかに生命の実が使われているのは少し納得である。守護神様にその辺の果物とかを供えるよりはよほどまともだ。それを盗むのは多少気が咎めるが、命には代えられない。
思ったより簡単な試練で良かった。この時の私は心底そう思った。
まあ、すぐにその見通しの甘さを後悔することになる訳だが。
「じゃあ簡単じゃん!」
「まあそういうことだ。あと、私は別に七柱の神々に負けた訳じゃないから。勝とうと思えば勝てたけど、戦いでこの世界が滅びるのも忍びないって思っただけだから」
悪魔は思ったより負けず嫌いなのか、聞いてもいないのに補足を述べてくる。
が、生命の実の場所が分かった私にとってはどうでもいいことだった。
「知らないよそんなこと」
「それなら、せいぜい頑張ってくれたまえ」
悪魔はひらひらと手を振った。でも、そうと決まれば善は急げだ。さっさと実を手に入れてしまおう。
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