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時刻はすでに午後八時近くになっていた。
「帰ってきてから晩御飯作るつもりじゃったけど、すっかり遅くなってしもうたねえ。エビとかき揚げの天ぷら作ろうと思っとったんじゃけど」と敏子が言った。
「なんでもいいよ。何なら、宅配のピザでも取る?」
「そんな身体に悪そうなもん食べんでも。ご飯だけは炊いとるけん、簡単に炒飯でも作ったんでええ?」
「うん」
十五分もせず、たまごとたまねぎとピーマンとハムの炒飯ができあがった。
ダイニングテーブルに着席して食べながら、母子の会話はさっきの役員班長会議のことに及ぶ。
「本当に、放火なんじゃろか?」敏子が言った。
「さあ……、どうなんだろう。私が火事見に行ったときには、現場に怪しい人みたいなのはいなかったと思う」
「私はちょっと冷や冷やしたがね」
「何が?」
「高崎さんが、この前言うとったみたいに、『犯人を早く捕まえんから、不幸が続く』みたいなこと言うて、怪しげな宗教団体を布教し出したら、どうしようって。イタコ芸か何か知らんけど、ああいうのをあの場で言われたんじゃ、ちょっとどうにもならん」
そういえば、今日は高崎は一度も発言しなかった。もとより大人しい印象のあった人だから、それ自体は違和感のあることではない。
「高崎さんのところは、旦那さんと二人で住んでるの?」
「そうみたいじゃね。たしか息子さんがおったはずじゃが、やっぱりどっかで就職して帰ってきとらんのじゃろう」
「やっぱりみんな、県外に行ったら帰って来ないんだね」
「だって、帰ってきてもしょんなかろがね。こっちにはもう、役所と病院とパチンコ屋以外にはまともに稼げるような職はないんじゃけん。東京に出て行ってからこっちに帰ってきたんは、あんたくらいじゃろ」
「まあ、うちの会社はリモートになって、今はむしろ会社に来るなって言ってるくらいだし……。やっぱり市内で就職先を見つけるのって、難しいの?」
「まあ、そうじゃろ。特に今みたいなご時世は。昔からあった地場産業はすっかり衰退して、生き残った会社も人件費の安い海外に拠点を作って、行ってしもうたけんね」
雄一郎はまだ再就職先は決まっていない。失業保険はいつまでも貰えるものではなく、その期限が切れるまでに見つけられるだろうか。
「そういえばお母さん、自治会の書記だったんだね。三十年前に」
「え? ……そんな前じゃったか。たしかに書記の役員をやらされたことはあったわい」
「東さんが言うには、昔に今回みたいな義捐金を募集する回覧板を回したことがあったらしいから、昔の文書確認してたら、ちゃんと残ってて。そのときの書記が、お母さんになってたから」
「ああ、そんなん書いたような記憶が、ちょっとだけある」
「内容は、金田恵子さんの旦那さんが亡くなったから義捐金を集める、みたいなものだったけど、金田さんの旦那さん、なんで亡くなったの? まだ若かったんでしょ?」
美咲がそれを問うと、敏子は口のなかに入れた炒飯を咀嚼してから、
「そんな昔のこと、おぼえとるかい」と言った。
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