20
消火が確認されたのは、朝の六時を過ぎたころだった。野次馬の大半は帰宅したが、何人かは残っている。美咲もそのうちの一人だった。
家の柱であった木材が、炭になって剥き出しになっている。
大山田が消防隊員と警察官に何か聴取されていたが、その途中でいきなりまるで子供のように号泣し始め、アスファルトの上に突っ伏した。
ほかの家に延焼はなく、犠牲者も一人もなかったのは不幸中の幸いだったが、大山田の家はリフォームなどでは回復し得ないくらいの被害を受けており、建物の体躯は残っているものの住み続けることはできないことは誰の目にも明らかだった。
伏したまま泣き続ける大山田に、美咲と同じく残っていた自治会長の五島が近寄って、しゃがむ。
「せいちゃん、五島じゃ。この度は本当にお気の毒です」と五島が声を掛けた。
そして立ち上がって、消防隊員と警察官に言う。
「私は自治会長をやっておる五島という者です。いろいろあるんでしょうが、聴取はまた後日にしてもらえんでしょうか。せめて、今日の昼以降にでも……。このようにショックで、何にも喋れるような状況ではないんで」
消防隊員は肯いた。警察官のほうも続いて肯いた。
「ほら、いつまでも泣いとったんじゃ、だめじゃ。とりあえず、集会所に行って、そこで休もう。あとで布団持っていっちゃるけん、ちょっと寝たらええ」
五島は大山田を抱きかかえるようにして立たせた。大山田は五島に手を引かれ、ひどく狭い歩幅で歩き始めた。
家に帰ると、敏子はもう起きていて、美咲の姿を見つけると、
「火事、すごかったね」と言った。
「お母さんも見に出てたの?」
「うん。さすがにあんだけサイレン鳴ったら、目が醒めてしもうて。やっぱり大山田さんの家やったん?」
「うん、自治会長さんが来て、とりあえず集会所で休むって」
「気の毒に……。大山田さん
「そうなの? 息子さんっていくつくらいなの?」
「下の子が、あんたよりたしか六つか七つくらい年上」
「そう。息子さんが海外なら、たいへんだね。今から息子さんのとこに身を寄せるのも、難しそうだし」
「市内か近くに、親戚おるんじゃろか」
「さあ。見る限り、自治会長さんと昔からの知り合いみたいだったから、自治会長さんがうまくやってくれればいいけど」
美咲はオーバーシャツを脱いだ。
「あんた、煙の臭いがだいぶ染み付いとるよ。シャワー浴びておいで」敏子が言った。
美咲はパジャマの袖を鼻に当てて、臭いを嗅いだ。たしかに、タバコではない煙の臭いがする。
「ずっと火事見よったら、そら臭いも付くがね。洗濯するけん、洗濯機のなかに放り込んどき」
「うん」
今日着るべき服をタンスから取り出して、浴室に向かった。
「タバコ、止めよ。うちもいつ火事になるかわかりゃせんわい」敏子が美咲を叱るように言った。
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