00:13.13
その後、エレベーターは来た時よりも比較的長い時間をかけて降りていった。
モニターに映る数字も「B」を示してから何も変わらなくなってしまった。
唐突にエレベーターが停まり、扉が開く。目の前には空間があった。
恐らくは車両のようなものだろう。これで本部まで行くに違いない。
その乗物の全貌は見ることはできず、ただ先の見えない闇とこの建物を繋ぐ大きな隙間がそこにはあった。少し躊躇した後、意を決して巡は乗り込んだ。
暗闇に身を任せた途端、扉を閉められ、外の景色も見えない完全な暗闇となってしまった。
そのため、どこに何があるのかもわからず、どれだけの時間が経っているのかも分からなかった。機体が揺れることで自分がシートの上に座っていることだけは認識できた。そうしているうちに、昨夜から続いていた緊張が少しほぐれて眠ってしまっていたみたいだった。
こうして今に至るというわけだ。
どれほどの時間眠っていたのかもわからない。暗闇の中で巡は不安を覚えた。
(既に試験は始まっていて、何か自分はとんでもない間違いを犯しているんじゃないか)
いらない妄想が膨れ上がる。また緊張感に包まれた。
今、巡が乗っているのは収容施設から本部までを結ぶ単軌鉄道のようなものであろう。そのため、運転手も恐らくいない。相変わらず、ここに至るまで誰一人として人に会うことはなかった。だが、そんなことにはもう慣れてしまった。ただ時折感じる揺れのみが手に入れられる情報だった。
どれくらいそうしていたのだろう。機体が速度を落としているのを感じた。そして、ここ数時間の唯一の友であった揺れが止まった。乗車していた時間はもっと長かったのかもしれないし、あるいは半時間ほどしか経っていなかったのかもしれない。時間の感覚がおかしくなる。
しばらくすると、扉が開いた。
機体から出るとそこは既にある建物の中だった。後ろで扉が閉じる音がして、またどこかに走り去っていってしまった。白い壁と床に囲まれた廊下。収容施設の部屋の前の景色と似ているかもしれない。道は一直線に続いており、奥に扉があるのが見えた。
(ついに来たのか……)
巡は息を飲んだ。ついに始まるのだ。
巡はゆっくりと足を踏み出した。このまま歩いても、永遠に扉にたどり着かないのではないかと思うほど、その廊下は長かった、気がした。扉の前にたどり着くと幾分か落ち着いた気持ちになった。
「お名前と番号を入力してください」
扉の横の不自然な程に緑に光る文字がそう要求した。言われた通り名前と自分がこの9ヶ月を過ごしてきた部屋の番号を入力した。
「確認が完了いたしました」
少し間があって、扉が開いた。
「ようこそ、盾の過徒適正試験へ。中にお入りください」
そう告げると、緑の文字は自分の役目はもう終えたといわんばかりに消えてしまった。
覚悟などとうの昔に決めていた。過徒になる。自分の中にあるのはそれだけだった。確かにこの9ヶ月間は地獄のような生活だった。だが、一度も後悔なんてしたことはなかった。あの日、両親が死んだ日、自分が助けられた日に感じたあの美しさをもう一度。そして、それを少しでも多くの人にも享受できたら。
巡はまた足を進め始めた。
次回→1/19 23時頃
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