第5話 カナちゃんと静電気
親友のカナはちょっと変わってる。
でも、どこがって聞かれると少し困る。それってとても説明しにくくて。
たとえば三時間目の英語の授業の準備をしてたときのこと。
「さ、さ、サクラちゃん、大変です」
「カナ、どうしたの?」
「穴、穴……」
「穴がどうした?」
「私、ノートに穴を開けられるようになってしまった」
ノートは紙だから、穴が開くこともあるとは思う。
そう言いかけたらカナが自分のノートを見せてくれた。二時間目の数学のノートだ。几帳面に数式の書かれたページの右端に、小さい穴がいくつも開いている。穴の周りは黒ずんでいるから、シャーペンの芯を突き刺したのかな。
「どうしたのこれ」
「電撃が打てるようになった」
「はあ」
魔法か!
相変わらずカナの言うことは謎だ。でも言われれば、穴の周りはシャーペンの黒ずみじゃなくて焼け焦げているようにも見えた。
「最近寒いからカーディガンを着てるんだけどね、教室は暖房が効いてて熱くなったら脱いだの」
「うんうん。私もそう」
「そうしたら電撃が打てるようになった」
「なるほど静電気か」
「うんうん。サクラちゃん、見てて」
カナはそう言うと、椅子の背にかけていたカーディガンを着て、三回その場でジャンプした後でこんどは勢いよくカーディガンを脱いだ。
「今の儀式は何?」
「いいから見てて」
机の上に広げられた私の英語のノートに、カナが右手の人差し指をそっと近付ける。指がノートに触れる直前、バチっという激しい音がして、広げたページから煙が出た。
「ひっ」
「紙を貫け、ライトニングッ」
「え? いまごろ詠唱?」
「だって叫んだのに電撃でなかったらちょっと恥ずかしいから」
「……なるほど」
私のノートには見事に穴が開いて、穴の周りは黒く焦げていた。
これは静電気だ。科学的に間違いない。
三回ジャンプしただけでこんなに強力な静電気になるとか謎だけど。
「いや、ジャンプは必要ないと思う」
「じゃあ、なぜ」
「そのほうが本格的っぽい気がしたから」
「そうか」
そういうとカナは今度は普通にカーディガンを着て、脱いで、ノートに指を近付けた。さっきと同じように静電気がノートに穴を開ける。
「実は簡単」
「そうか」
つまり、カナってちょっと変わってる。
でもどう変わってるのかって聞かれたら、説明がすごく難しい。
【了】
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