第38話 ☆スーパーで鉢合わせ
父を亡くした後、生活のため母は看護師に復帰し、そんな忙しい母の負担を軽減したくて、中学に上がってからの家事はあたしが担うことにした。
だがそれは、想像以上に大変なことだった。
特に頭を悩ませるのが毎日の食事だ。
同じものばかり作ることもしばしば。
最初は野菜の相場もわからず、余計な出費をすることも。
その上栄養バランスまでって考えると、どれだけ母が苦労していたのか……。
何も考えず食玩をねだっていたことが、如何に子供だったのかと打ちのめされた。
今日はチラシを見て隣町のちょっと遠いスーパーに出かける。
カレーのルーと野菜がお買い得なだけじゃなく、決め手は好きなアニメの食玩の特売もあったからだ。
どれにしようかと悩みながらペダルを漕ぐ。
わくわくしながらお菓子売り場に行った時のことだ。
「お兄ちゃん、お菓子、お菓子」
「日奈、他の人に迷惑だから走るなよ」
「はーい」
「それとお菓子は2つ、いや3つまでな」
「みっつ!」
小さな女の子のはしゃいだ声とどこかで聞き覚えのある声が近づいてくる。
(っ?! 入間樹……)
やってきたのはよりにもよって、あのいい加減男だった。
教室ではあまり見せたことない柔らかい表情で妹らしき子と楽しそうに買い物をしている。
「日奈はいつも買い物の時嬉しそうだな」
「えへへ、お買い物は大好き、いつも新しい物を見つけられるのは楽しい」
あたしはといえば咄嗟に棚に隠れて様子を窺ってしまう。
なんだかあの妹ちゃんの言葉を聞いていると、微笑ましくなってくる。
「そんな買い物満喫中の日奈よ、明日のお弁当はハンバーグか唐揚げどっちがいい?」
「うーん……日奈は夕ご飯がハンバーグでお弁当は唐揚げがいい!」
「そりゃあいい考えだ。それじゃあ、お弁当の付け合わせはジャガイモとほうれん草でもソテーして」
「うさぎさんのリンゴもね」
「おうよ」
「お兄ちゃんのお弁当はいつも褒められる。だから日奈も鼻が高い」
「どこでそういう言葉を覚えてくるんだ? はいはい、頑張ります」
入間がお弁当? 何で? もしかしてそれでいつも遅刻してるの?
どういう理由があるかわからないけど、効率よく作れば遅刻なんてしないでしょ!
なんだかもやもやした気持ちが生まれ、足早にレジへと向かう。
なんとなく、顔を会わせたくなかった。
素早く会計を済ませると、さっさと自転車置き場に向かう。
「ちょっとだけだから付き合ってくれてもいいじゃん」
「い、いえ、これから塾があるので……」
「そんじゃあその塾に俺らも行くよ」
(んっ?)
来た時には居なかった高校生が女の子をナンパしていた。
制服の着こなしは見るからにだらしがなく、学校生活になじめなかったとさもアピールでもしているみたいだ。
髪も染めているので余計に心証悪く映る。
それだけで理由は十分。
「あの、その人嫌がってますよ」
あたしは反射的に声を掛けていた。
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