第4話 友人の連絡

 それから、あっという間に夜になってしまった。

 ぼくだって真面目に講義を受けるときもある――しかしながら、講義を受ける態度だけが真面目で、それが試験の成績には反映されていなかったりするのだけれど。もう少し精進しないとね。

 大学のキャンパスを出て、しばらく歩いていると、スマートフォンが震える。

 ただ震えた訳ではなくて、バイブレーション機能が動作しただけに過ぎない。

 スマートフォンをポケットから取り出すと、それはLINEの通知だと分かった。

 数少ない知り合い、高徳からだった。


『今、電話出来るか?』


 短いメッセージではあったけれど、直ぐに電話をしない配慮は有難いと思う。

 例えば、電車に乗っていたら電話には出られないし。一応、通話拒否した後にメッセージを送って『後で折り返します』的なことは出来るらしいけれどさ。


「……しかし、何だろうね?」


 電話をした方が良いのだろうか?

 しかし、してみないと何か起きたのか分からない……。良いことかもしれないし、悪いことかもしれないのだし。それについては、シュレディンガーの猫と言えば良いだろうな。

 歩きスマホはあまりしない方が良い。だから、ぼくは立ち止まるとスマートフォンを操作して、メッセージに返信する。

 僅か一分で既読になって、電話が掛かってきた。

 何だよ、スタンバっていたのか?


「もしもし」

『いきなりごめんな。今何処だ?』


 電話に出ると、高徳が少しだけ慌てているような様子だった。


「何処って……、キャンパスを出て少し歩いたところだよ。何かあったか? 忘れ物はしていないはずだけれど」

『そういう話じゃないんだよな……。いや、ちょっとだけ話せるか? 電話でも良いか?』


 別に良いよ。長話をしたところで通話料はそちら持ちだろうからな。

 あれ、通話料って電話を掛けた人が払うんだよな?


『それなら別に良いのだけれど……、後これは連絡網とかそういうのではなくて、おれも今さっき聞いたばかりの話なので、そこだけは理解してくれ』

「何? 明日の講義が休みになったとか、そういう話だったりする?」

『それぐらいの話だったら、全然悪くなかったんだけれどな』

「?」

『……瑞希ちゃんが死んだ』

「………………………………は?」


 いきなりそんなことを言われて、ぼくは目を丸くしてしまった。

 というか、瑞希が死んだ?

 瑞希が?

 あの瑞希が?

 つい昼過ぎにも会ったばかりの、元気が擬人化したような存在の、あの瑞希が?


「……死因は分かっているのか?」

『聞きたいのか?』


 ということは、酷い有様だったのか。自殺ではなく他殺、それも惨いやり方だったのだろうか。


『その推理力だけは凄まじいと思うが……、まあ、その通りだ。正確には後者、かな。瑞希は殺されたらしい。それも、首と右足を損傷した状態で。首から上は完全に消えてしまっていて、何処に消えたか見つかっていないらしい』

「首から上が? でも、どうしてそれが瑞希って……」

『おれも良く知らないけれど、血液検査とかその類いで分かったんじゃないか?』

「……とにかく、どうすれば良いんだ? もしかして、高徳、お前は今犯人捜しをしているのか?」

『そんなこと、する訳ないだろ』


 高徳は一蹴する。


『そんなことをしたら、おれが犯人に目を付けられて、さらに新たな殺人事件が生まれかねない』


 まあ、それはその通りだ。

 正しい選択と言えるだろう。

 けれど、どうしてそんなことをされたのだろうか……。全く、見当が付かない。


『付く訳ないだろ。……ってか、この状態で見当が付いたら、それはそれで問題だ。超能力者か犯人のいずれかしか、そう思わないんじゃないか?』


 そうだろうか。

 ぼくはあまり考えたことないけれど、案外そういう考えに陥る人間は少なくないと思うけれどね。


「……とにかく、詳細が知りたい。どうして瑞希は殺されなくてはいけなかったんだ」

『そんなの、おれが知る訳はないだろ。……でも、聞いたことがある情報は持ち合わせているよ。お前、ニュースサイトやアプリは良く使っているか? 新聞でも別に良いけれど』


 広告が良く出てくる無料のニュースアプリなら、クーポン目当てでインストールしているけれど、それがどうかしたか?


『オーケー、その感じからするとニュースを読むためにアプリを起動はしていなさそうだな……。最近、この辺りで殺人事件が頻発している、そんなニュースを見たことはないか?』


 この街って、そんなに治安悪かったっけ? 住みやすい街ランキングで上位に上がっているのは見たことあるけれど、そんなニュースは聞いたことも見たこともないな。

 


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