こーひー
如何敬称略
こーひー
その芳しいにほひ。部屋に満ち満ちたコーヒーの、臭いに酔ってしまった。
彼は啜る。その黒い液体を。少しずつ 、少しずつ。
最近になって彼はコーヒーをよく飲む。湯を沸かし、インスタントコーヒーの粉を一匙マグカップに入れ、湯を注ぐ。狭い部屋に一気に臭いが立ち込める。特に嫌いというわけでは無いんだ。私だってコーヒーは飲むさ。一人、雰囲気のある喫茶店へ通い、ブラックコーヒー片手に大好きなラノベの何冊かを読むことにどれほど憧れているだろうか。しかし私は穢してしまった。魔剤として服用しすぎてしまった。今となっては、コーヒーの臭いに不意に襲われると頭痛がし、まるで酔ったかのような感覚に陥る。思考があまり働いていない自覚を抱えてしまう。
彼は、コーヒーを片手にスマホをイジる。おそらくLINEの画面であろうよ。ニヤついていやがる。彼はこうして何時間も同じ画面を見つめ続けている。コーヒー片手に。今日は一段と臭いが強いように思う。
きっと彼も、酔っているのだろう。この臭気にあてられて、というよりは酔っていたから気付いていないのだろう、これほどまでに強い臭いに。冷淡に、批判的に評するなら、周りが見えていない。全く、彼の、或いは彼らの世界しかそこにはないのだ。
曾て、というほど昔でもないが、以前は私もそうだった。周りなどお構いなし。決して周りがどうでも良い存在だと認識していたのではない。単にそこに存在していなかったのだ。存在しないんだから、認識もなにもない。
ただ、いつかさめたとき、理解する。
時間があれば分かったとよく言い訳をしていたが、逆に時間が経たないと分からない。相対化の渦に呑まれていたことを。
彼はコーヒーを啜る。
こひのにほひ。
こーひー 如何敬称略 @SugarCastle
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます