第2話 断れないので帯同します

 古い文献によると異世界から来た聖女に選ばれた勇者にしか魔国の王を倒せないと書かれている。


 幸いな事にゴルチェ王国には文献を信じて五年前に異世界から召喚した聖女マキが居る。


 そして彼女が選んだ勇者が第一王子カイル。

 聖女のマキと勇者のカイルは仲間を集めようとしたが志願したのは騎士見習いのカルサール公爵家嫡子のハザードだけだった。


 そこで 王に目をつけられた一人がゴルチェ王国にも活躍が聞こえてきていたレッジィーナだった。


「旅に帯同し、勇者の魔国の魔王討伐を手伝え」


 それがゴルチェ国王からレッジィーナが命じられた王命であった。


「そもそも、何故私が行かねばならぬのです?」


 何故自分にその役目が回ってきたのか不思議でならなかった。


「国政が傾き、治安が乱れ、民達は混乱し、力のあるも含め貴族達の多くが自分の領土から出てこなくなってしまったのだ。

更に愚かな者たちは自分の責任を果たさず、自分たちさえよければと他国に逃げた者もいる」


「……」


 呆れて物が言えない、という事を今まさに体感していた。


 国は荒れ、民は嘆き、治安は乱れ、貴族は籠る。


 でも国から出た者がいることくらいはわかっているのですね。


 国をみかぎり、私に手を貸し助けたことまではわかってなくても


 力のある者たちが自領から出てこなくなり、王族の近くに居ておいしい思いをしようと考える無能貴族、対人戦しか経験のない近衛騎士、下級騎士や騎士見習い、文官など戦力にならない者しか王都に残っていない。


 集まらなかったったから、そこで声がかかったのがギルドなどの無いゴルチェ王国にまで名前が知れ渡ったレッジィーナだったのだろう。


 もう何度目になるか分からない断りの言葉を口にしようとした時、常では考えられない程の勢いで謁見の間の扉が開かれた。


「どうも、邪魔するぜ」


 開かれた扉の先、黒髪の長髪男がそう一言告げて入って来る。


「な、何者だ! 騎士達は何をしている!!」


「怪しい者じゃないですよ。マスターからジーナ宛の手紙。届ける様にって言われたから持って来た」


 手に持った封筒を振りながら男は言う。


「エルメス、貴方どうやってここまで来たの?」


「どうって城まで転移してそのまま歩いてだが?」


 なぜ自分がどうやって聞いたのに疑問形で返してくるのよ。


「いや、そうじゃなくて……


「 ここに来るまでに煩い奴等については全員おねんねしてもらったぞ。安心しろ。殺してはいないから」


「ならいいけど」


「おい、誰だそいつは?」


 カイル第一王子が叫ぶ。


「名乗り遅れました。俺はジーナと同じクランに所属しているエルメス・ルシファーだ。

 彼女とは公私ともにパートナーだ」


 楽しそうに笑ったエルメスはレッジィーナに向かって手渡した封筒の中を確認するように示す。


「これは……」


 中に入っていた手紙を読んで僅かに目を見開き、驚きの表情でエルメスを見た。


「そういう事だ」


「了解。そういう事ね」


 頷き合い、何やら納得した二人に周囲は首を傾げる。

 周りなど気にせずレッジィーナは告げる。


「勇者に協力のための魔国への帯同、慎んでお請けいたしましょう」


 その言葉に当初とは違った意味でざわつく。


「心変わりでもしたのか?手紙には何と書いてあったのだ?」


「クランマスターから勇者に協力するようにという命令が出されたので、よろしくねというクランマスターからの命令書です。

マスターからの命令となれば話は別です。依頼を受けるかは個人の自由ですが、クランマスターからの命令は断る事はでず、決定事項ですから」


「"私達"?」


「はい。私とエルメス・ルシファーです。故に、この男も帯同します」


「よろしく」


「分かった」


「よろしくお願いしますね、エルメスさん」


「……」


 エルメスの手を握ってマキはそう言った。


「えっと、聖女だったか?」


「マキです。マキ・ヤマナカ」


「お前の名前なんかどうでもいいし、まぁ何でもいいが、俺が参加するのはパートナーのレッジィーナがいるからだ。

 パートナーの一方に出された命令でも必然的に組んでいるもう一方も強制参加にもなるからな」


「はぁ……」


「つまり、レッジィーナに命令書が来たから俺も参加するって事だ」


「クランマスターからの命令が無かったなら、俺らは今や他国の者に一方的に命令し、自分たちがどのような状況にいるのか理解できるだけの頭もない者たちの集まりなこんな国さっさと見捨て出ていっているさ」


 エルメスは相手が理解できていないとわかったのかマキと話すのをやめ、私に別の話を振ってきた。


「宿取るか?」


「必要ないわ。宿取っても一人で泊まることになると思うわよ」


 エルメスにそう言うと私は国王の方を向いた。


「さて、国王様。依頼を請けるにあたり私から一つお願いが御座います」


「何だ?」


「今回依頼で、勇者である第一王子と聖女であるマキさんが魔国の王を倒したと判断した時を持って依頼完了とし、困っていることがあるので、私の望みに協力してください」


「先ほどは自分で叶えると言っていたはずだが……、まあよかろう」


「ありがとうございます。手っ取り早く叶えるには国王様たちに協力してもらった方が楽ですからね」


 詳しく聞かなかったことを後悔しないでくださいね。楽しみにしててくださいね国王様たち……


「そうか。出立は一週間後だ。それまでに必要な物は揃えておくように。出立まではカルサール公爵家に置いて貰える様に言ってある。明日、共に旅に出る者達との顔合わせの時間を儲ける様に手配しておく。昼過ぎに先程の男と共に登城せよ」


「分かりました。では、本日はこれで失礼致します」

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